砂時計が落ちるまで 14







「……丁度、そんくらいによく空飛んでく変な宇宙船みてぇのを見るようになって……今思えばあれが幕府のとこ発破かけに来てた天人のお偉いサンだったんだろうなぁ……先生は、本気か嘘かあれは怖いものじゃないですから、大丈夫ですよなんて言ってたけど」
 その争いが発端で殺されしまった今を思えば、皮肉だよなと銀時は嘲笑う。
 そんな銀時の腕に収まったまま、土方はどこか痛ましげに目を細めながら銀時の話を静かに聞いていた。
「……本当に、立派な人だったんだな、お前の先生は……」
「立派っつーか、……すげぇ懐の広い人だったよ。なんでもかんでも抱え込んで、全部抱擁して守ろうとする人だった。その割に子供っぽいっつーか、前に一回天人の船の中はどうなっているんでしょうねぇ、なんて言って。忍び込んでみましょうかって笑ったの俺と高杉で必死に止めてよぉ」
 そう笑いながら、銀時は土方の身体を己の腕の中へと抱き寄せた。
 銀時の話す松陽の話に土方も思わず吹き出し、とんでもない人だなと二人で笑う。
 己の身の上話などしたことがなく、とにかく一番初めの記憶といえば四方八方に死体が転がる戦場で一人ぼっちだったところからという今時映画でも早々無い中々にヘビーな展開だと我ながら思っている。
 例に漏れず話し始めて直ぐ土方は己の言葉の重みに気づいたようにもういいもういいと首を振ったが、銀時は昔の話だからと、良かったら聞いてほしいのだと土方に告げ、土方はそれを受け入れた。
 昨日まで、二人の定位置は居間のソファか和室の壁に二人で並んで座るかのどちらかだった。
 だが、今日は例の発作が起きる事が予想されているその日だ。
 銀時は土方の体調を鑑み今日は話はやめにし安静にしていたほうがいいと告げたが、土方がそれでもと続きを聞きたがった結果、銀時が土方の布団の脇に腰掛け話をすることになったのだ。
 だが、途中から土方がこっちにこいと袖を引いたため、抗えず今は布団の中で土方を胸に納め銀時は話し聞かせをしている。
 恐らく、だが、怖いのだろうと銀時は思う。
 退行の事実を銀時は土方に直接は話していない。
 だが、土方とて今の自分から近藤の記憶が奪われることのリスクなど言われずとも分かるのだろう。
 発作が起こる時間はまちまちで、今のところ法則性のようなものは見つからない。
 だからこそ、いつ起こるかわからないそれまでの気を紛らわすかのように、土方は銀時の言葉を求めた。
 山崎の推理が正しければ、発作はあと十数時間のうちに確実に訪れる。
 そして、土方の根源とも言えるその記憶を根こそぎ奪い取っていくのだ。
 土方の心臓が少しずつ、その速さを増しているのは気のせいではないだろう。
 必至に襲い来る未曾有な恐怖と戦っているのだろう、と思う。
「そんで、その時桂が……、土方?」
 不意に、土方の表情が強張ったような気がして、銀時は言葉を止めた。
 だが、土方は銀時の呼び声には堪えずに顔を強張らせたまま銀時の袖から手を離し、頭を押さえる。
「……ぁ、…ぅ、あぁ、痛ぁ……、あ、あぁあっ!」
 そのまま悲鳴のような声を上げる土方に、銀時は『それ』が始まった事を確信した。
 頭を抱えるように布団の中でのたうつ土方を、銀時は必至に抱き寄せ腕の中へと閉じ込める。
「い、ぁぁ……や、っ、あぅ、ぐ……うあぁぁあああ」
 どうか、少しでも痛みが軽く済むようにと願うが、喘ぐような土方の悲鳴は収まらず、喉が焼き切れるような声は耳元で止まない。
「土方、土方……土方!」
 三度、名前を呼びかけるのとほぼ同時に、ひぐ、と土方の喉が不自然に息を止める。
 そのまま事切れるように意識を失う土方の身体を離し、銀時は急いでその息と鼓動を確かめた。
 暫く息を止め、どちらも正常であることを確認し、銀時はほっと胸を撫で下ろす。
 だが、数時間後目が覚めた時、土方は恐らくもう、今の自我を失ってしまっているだろうと思う。
 それでも。
「なぁ、土方……俺も、……愛してるよ」
 昔も、今も、これからもずっと。
 例え土方が、もう己の事を思い出してくれることがないとしても。
 それでも、――ずっと。
 あの手紙の返事のようにそう囁いて、銀時は震える唇を土方のそれに合わせる。
 それは、二人だけの小さな部屋の中でで交わす、誓いのような口吻だった。




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