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「っ、ん……あぁ……」 喉を詰まらせたような甘い声が、小奇麗な部屋の中へと反響する。 飲み屋からのなし崩しで訪れたホテルは、外観こそ普通のビジネスホテルのようでも中に入ればその内装はやはりそれらしいもので。 ベッドの脇から無造作に掴みとったローションの袋を歯で噛みちぎりながら、銀時は目の前で嬌声を上げる土方の腰をもう一度しっかりと支えた。 先程の飲み屋で交わした会話は驚くほどに病気とは一切関係のない話題だった。 それが意図的か無意識かは分からないまでも、銀時も調子を合わせるようにその件には一切触れなかった。 今は、たとえ一時でも総てを忘れてしまいたいのだろうと、銀時は土方の肌に指を滑らせる。 勿論、こんな現実逃避をした所で状況が改善するわけでは決してない。 だが恐らく土方の張り続けてきた糸はもう、限界だったのだろうと思う。 診察を受ければ、検査結果が出れば、病名がわかれば、書類を読めば。 そうして与えられてきた小さな希望の灯りは、総てあっけなくその火を消している。 そして、土方にとって本当の地獄はこれから始まるのだ。 一時でもその現実からの逃避を夢見た所で、それは仕方のないことだろう。 「あ、っよろず、…やぁ……」 「土方、腰、もうちょいあげて……?」 常よりも優しく壊れ物でも扱うように抱きたい気持ちは多分にある。 だが、そんな事をすればきっと土方は必要以上に気を病むはずだ。 己の身体が、銀時をそうさせているのだと、一層その身体を恨む要因を増やすだけで。 だからこそ、銀時はいつもどおり、貪るようにその身体を食らう。 それがなにより土方の精神安定に繋がるのだと、それは自惚れにも似た確信だった。 指先で掬い取ったローションを、銀時は尻の間に滑らせ後孔を探る。 抵抗なく指が飲み込まれるその様に喉を鳴らし、ぐちゅりと粘着質な音をさせながらその内部を指で穿った。 恐らく、土方にとって今最も怖いことは『必要とされなくなる』事だ。 真選組に長期の休暇を与えられている今の状況下で既に、土方の心身は自責の念に苛まれているだろう。 この上更に銀時が少しでもその病を疎むような様子を見せれば、土方の心にどんな変調をきたすかわからない。 元来、土方は己がこれと決めたものへの執着が強く、その依存性は通常より高い。 それは人間に限らず、マヨネーズや煙草などの嗜好品、それに真選組という組織そのもの。 加えて近藤勲という唯一無二の上司であり親友でもある男。 そしてそこに新たに加わったのが、恋人である銀時だ。 土方の性格は短くはないその付き合いの中である程度熟知はしている。 もし銀時が土方を――それがたとえ病であっても――疎むような事になれば、恐らく土方は進んで銀時の元から姿を消すだろう。 少なくともそれを疎む相手にその原因の押し付けをしたり、共倒れを望むような性格では絶対にない。 本当に不要だと思えば、驚くほどあっさりと、土方は対象から己を切り捨てる。 土方を助けたいと思えば、この手を離すことだけは絶対にしてはいけない。 その瞬間に、もう二度とその手をつかめなくなってしまう可能性は、決して低くはないのだ。 これで土方の依存が『共依存』型ならば、まだ状況は違っただろう。 共依存はその文字どおり、己と対象が共にある事に対して依存をするタイプで、この場合土方は何があろうと、銀時の傍を離れることを嫌がる。 だが土方が依存するのはあくまで対象個人、それも『己の望む相手の存在』に酷い執着を覚えるようで。 更に、それが壊れる原因が発生すれば、片っ端からその原因を排除していくタイプといえばわかりやすい。 そうして、土方の中に存在する『己の望む相手の存在』を守ろうとする。 その壊れる原因が自分である場合は、言わずもがなだ。 土方を疎む銀時の姿に、土方がどんな行動を起こすかなど考えたくもなかった。 銀時の言葉に従い緩慢な動作で腰を上げる土方の臀部を撫で、内部を探る指で既に場所を覚えてしまった前立腺を指の腹で辿る。 少しだけ強めに押すように触れると、その度陸に打ち上げられた魚のように土方の身体が数度跳ねた。 戯れにほんの少しだけ爪先で擦ってやると、耐え切れないと言った嬌声が口から漏れる。 耳を掠めるその声に、己の下半身がずくりと熱を増すのが分かった。 「いれんぞ」 耳元で短く囁けば、四つん這いのまま土方がこくりと首を縦に振る。 抜き出した指先で撫でるとまるでそれを内に取り込もうと収縮するその後孔に、銀時は熱を増した楔をピタリと宛てがった。 この体内の熱さを、自分は知っている。 何度穿っても、突き上げて吐き出しても、飽きることなど絶対にない。 どんなことがあっても、例え土方が全てを忘れてしまおうとも、自分は覚えている。 絶対に離したりなどしない、と。 決意を新たにし、銀時はひくつく土方の孔へと自身を一気に突き立てた。 抑えることなど考えてもいないような淫らな嬌声が部屋に響き、それすら土方の悲鳴を体現しているように思える。 治らないなど、治療法がないなど、嘘だと思いたかった。 だが現状坂本が提示した資料の情報を信じるならば、それは紛れもない現実で。 「よろず、や……ぁ、よろずやぁ…!」 まるで己の名前を何度も自分に言い聞かせるように喘ぐ土方に堪らなくなる。 一度先端まで自身を抜いた土方の身体を反転させ、その瞳に己の姿を移させた。 真っ黒な宝石かとおもう澄んだ色を持つ土方の鋭い瞳に、うだつのあがらない男の姿が写っている。 だがその光景を瞳に入れて、本当に幸せそうな顔をするのだから、手放せるはずなどない。 「土方……!」 「……万事屋……」 もう一度、己を呼んで、つぅ、と土方の瞳の端に溜まっていた涙が、頬を伝ってシーツに落ちた。 土方の頬を濡らすソレが生理的なものなのか、それとも悲しみからくるものなのかは、判断がつかない。 だが僅かに震えを増すその身体は確かに、土方の内に秘めている恐怖を銀時にこれ以上ないほど明瞭に教えてくれて。 「土方……、好きだ」 「あぁ……俺も、……」 好きだ、と呟き、土方がまた涙を伝わせる。 後から後から零れ落ちるそれは、土方が感情に任せ、涙を零していることを痛いほどに銀時へと伝えてくる。 そしてこれが、土方が衝動に任せ『泣く』姿を見た、最後、だった。 |