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初めてのセックスは、夜景の見えるホテルの最上階がいいの。 なんて、本当に馬鹿げていると銀時は思っていた。 それでも勿論、それなりの人となりと道徳くらいは持ち合わせていると自負している以上、誰とも知れない相手をラブホに連れ込んで云々、などという真似は好かない。 強姦などもってのほかだ。 だがしかし、この状況は。 (……ある意味、強姦よりひでぇんじゃねぇか……?) 心の中で問いかけた所で、答えが他人から返るはずはない。 強いて言うのならどこかにいるもう一人の冷静な自分が、分かっているのなら早くやめろと、警鐘を無駄鳴らししているくらいなのだが。 「あっ、……ぅ、」 ぐいっと少しばかり強引に腰を突き上げれば、腕の中から洩れる声は甘い。 苦痛より、快楽。 苦さより甘さを含んだその声は、確かに今、両手の中で艶めかしく揺れる男の口から発せられている。 男。 そう、男だ。 己は今、男を抱いている。 勿論、天人の妖しげな薬で女の子になっちゃった、などというオチもない、正真正銘、男の身体。 くびれもなく、腹だって割れている。 特別白いかと聞かれれば、別にそうでもない。 だが、しっとりと汗に濡れた肌は指に吸い付くようで、その手触りは極上だった。 「……ひじ、かた……」 思わず、といったように名前を呼べば、それだけで腕の中の身体は嫌らしく跳ね上がる。 闇の中でもなお、黒が映えるその髪に中途半端に脱げかけた着流し。 その帯にかろうじて引っかかっている、武士の魂。 武装警察真撰組で『鬼の副長』と呼ばれる、その美丈夫を、今、抱いて――いや、犯している。 切なそうな喘ぎを押さえながら、土方は正面の壁に指を縋らせ、必死で己の身体を支えていた。 その動きを助けるように、銀時も背後からその身体をしっかりと抱きしめる。 恋人のように、強く、しっかりと。 「よろ、ず…やぁ…あっ、イく……っまた……」 「いーぜ……、もっと、もっと、イけよ」 ぐっと強く突き上げ、土方の喉が反る。 唇を噛みしめ甲高い声を抑えたその柔らかな縁を、銀時は指先で撫でた。 こんな場所にいるばかりに、先程から銀時は土方に我慢ばかりさせている。 チラと周りに視線を向ければ、そこには汚いポリバケツが無造作に転がり、消失点にはほのかな灯りが点っていた。 今度は逆を見れば、10Mも行かない場所には大通りが見え隠れし、だれかがひょいとこちらを覗けば何をしているかなど一目瞭然だろう。 万事屋でも、屯所でも、百歩譲ってラブホでも、まして夜景の見えるホテルの最上階などではありえない。 灯りも乏しい、汚らしい路地裏。 何故こんな場所でこんなことをと先程までの己達の動向を反芻してみるが、正直なところ、よく覚えていない。 元々銀時は、一年ほど前から土方に懸想していた。 とは言っても、この鬼の副長さん相手にその気持ちを実らせるつもりも、まして気持ちを吐露するつもりも全くなかった。 強いて言えば、時折飲み屋で肩を並べ、良い酒が飲めればそれでいいか、なんて。 そんな、淡い淡い恋心に身を潜めていたのだ。 それは別段、振られるのが怖かったとか、そんな理由ではない。 と言うよりむしろ、土方が自分よりもっと前から己に懸想していたと分かっているからこそ、銀時も決して己の気持ちを悟られないようにとやってきたのだ。 いつからかは、分からない。 だが、自分よりは確実に前から、土方が銀時を見る目の中には、そういった欲がたゆたっていた。 それに気付いたのは、皮肉にも銀時が土方にその思いを寄せるようになってしまったからだ。 己で土方を恋愛対象としてみて、初めて、逆に土方から向けられていたあの妙に熱っぽいような視線の正体に気付いたのだ。 鈍いにも程があるだろうと、あの時は本気で心底、己に呆れた。 だが、同時に恐怖もした。 もし思いが通じ合っていることを知れば、土方は恐らく己との恋人関係を望むだろう。 そうなっては、困る。 本当に、本当に、困るのだ。 銀時としては土方との恋人関係など望んでいないし、むしろ一方的な片思いで構わない。 コイツのことが好きだと思いながら、片思いのまま、共に団子屋で話をしたり前述の通り酒を酌み交わしたり。 そんな、何でもない関係が築ければ、それでいい。 それがいい。それ以上など、望まない。 というより、望んではいけないのだ。 こんな、最低な性癖を持った、自分は。 「……ひぃ、あっ……っン」 一際大きく身体を揺らし、達した土方の体内に精液を叩き込む。 今、土方の気持ちは全力で銀時へと向かっていて。 そして今、己はその身体をも自分の物にしてしまった。 きっと土方は、この後自分がもう一度気持ちを告げれば、俺が笑って、己を抱きしめてくれると、そう思っているだろう。 「……ん、よろずや……」 快楽に濡れ、震えた瞳でこちらを見やる土方に、銀時は思わず目を逸らした。 気持ちが通じ合っているのに、その相手を突き放さなければいけないのは、やはり、辛い。 「すき、だ……」 熱に濡れた声が愛おしい。 己の精に濡れたその身体を抱きしめ、余計にその気持ちは増した。 あぁ、可愛い。 可愛くて、愛しくて、堪らない。 「あぁ、俺もだよ……」 この身体を、早く。 ――早く他の誰かに、ぐちゃぐちゃに犯させたい その思考に考えが行き着いた直後、襲ってくるのは猛烈な罪悪感と確かな滾り。 (……終わってるな、俺) だが、この土方が見知らぬ男に抱かれ、嬌声を上げているところを考えると、それだけでイってしまいそうな程にまた気が高ぶるのだ。 更にそんな土方を、その男の情事を報告させながら抱きたい。 イく時に自分ではない、その間男の名前を呼びながら果ててくれれば、最高だと思う。 俗に言う『恋人を寝取られる』という状況。 銀時は何よりそれに興奮する。 つまり浮気をした相手を仕置きのように抱くことに、強い性的快感を覚えるのだ。 最低だと、分かっている。 だからこそ。 「でも、……ごめんな、恋人にはなれない」 そんな人間として終わっている性癖に、潔癖な土方を巻き込む事など、できない。 本音を言えば潔癖な土方がそんなことになればそれはもうケモノのように腰を振って絶頂する自信がある。 だがそんなことになれば、まず間違いなく汚物扱いをされもう二度と側にすら寄らせて貰えなくなるだろう。 それは、いやだ。 銀時の声に、土方が目を見開く。 そんな答えは想定もしていなかったのだろう。当然のことだが。 むしろ思いを通じ合わせ(場所はどうあれ)セックスをして、思いを告げ合った直後に振られるなど、軽いどっきりだ。 だが、もちろんこれはどっきりでも冗談でもなく、本気の気持ちで。 そしてその理由を、土方に告げるつもりは、銀時にはなかった。 知られれば、嫌われてしまうに決まっている。 「な、んで……」 傷ついたような顔をする土方に、用意していたはずの答えが上手く出てこない。 数度口を開こうとして、言葉を発する事に失敗し、銀時はそのまま口を噤んだ。 ずるりと、濡れた土方の肢体から己の自身を抜き去り、身支度を調える。 懐から取り出した手ぬぐいで土方の下肢を拭ってやり、これ以上は見ていられないと銀時は強引に土方に着物を着せた。 銀時の腕に従って着物を整えながらも、土方の瞳には疑惑が溢れている。 「……なぁ、なんでだ」 帯を留め、刀を差し直し、土方は再度そう問い掛けてくる。 銀時は僅かに目を俯かせながら、土方にばれぬようそっと深呼吸をした。 そして、くすりと口角を上げる。 「じゃあ、聞くけど。……お前、浮気とが許せる方?」 「……は?」 脈絡ない問いに一瞬ぽかんとする土方に、銀時はだから、と言葉を繰り返す。 「浮気だよ。お前と付き合ってんのに、他の奴と寝るの」 セフレみたいな?と言えば、土方の顔がみるみるうちに歪む。 その表情の変化に改めて、あぁ、本当の性癖は絶対に口には出せないなと自嘲した。 「なんだ、それ……許せる訳ねぇだろ」 「だろ? だったら無理。おつきあいはお断りしまーす」 わざと軽い口調でそう言って、手をふらふらと振れば、土方が僅かに瞠目し、次いできっと視線を強めた。 「なんっ、……てめぇ、まさか付き合うなら浮気前提にとか言うんじゃねぇだろうな」 ぴんぽん大正解。 正し、事実とは微妙に違うけどと思いながらも銀時はくすくすと笑った。 いかにも土方が嫌いそうな、軽薄な笑みを形作って。 「んー、俺ダメなんだよね。唯一の存在とか、一途にお前だけとか、そう言う堅苦しいの。あ、勿論好きなのは嘘じゃねぇよ」 だから。 「お前のことはホントに好きだけど、多分、この先もずっと好きだけど、テメェは浮気なんてしたらそれこそ抜刀もんだろ? 俺痛いのはヤだし、だからって寝るならテメェだけってのは無理だから。あぁ、でも別に俺と寝たいなら、いつでも大歓迎だし、そん時はちゃんと俺もテメェが好きだから恋人みてぇに」 抱く、と言いかけた言葉は最後まで紡ぐことが出来なかった。 身体が、急な衝撃に制御不能になる。 吹っ飛んだ身体は路地裏に無造作に置かれたポリバケツに突っ込んで止まった。 身体の周りに生ゴミが散乱し、只でさえ臭い路地裏に更に悪臭が漂う。 じわりと頬が痛み、あぁ、殴られたのだと理解した。 「……っざけんな、クソ天パ……!」 怒りを耐えたような土方の声にずきりと胸が痛み、だが、これでよかったのだと己を納得させる。 「別に、フザけてないけど」 「……本気かよ」 「あぁ」 「……サイテーな野郎だな……」 続く暴言に、だがどこか安心もした。 自分なんかと付き合っても、土方は幸せになどなれない。 むしろ苦しくて辛くて、どうしようもない気持ちを味合わせる事になるのだ。 そんなのは、いやだ。 好きだからこそ、いやなのだ。 だから、これでよかったのだと己を納得させた銀時に、不意に、熱が触れる。 その前触れない暖かさと重みに驚き顔を上げると、信じられない光景が目の前に広がっていた。 先程銀時を殴りつけた土方が、同じその腕で、銀時の身体をしっかりと抱きしめていた。 混乱で思わず喉の奥から変な声が洩れる。 そんな銀時をなだめるように、土方が腕の力をほんの少し、強めた。 「とりあえず……痛み前払いだ」 「は?」 「恨み言も言えた。だから、もういい」 「……は?」 甘えるように、土方の指先が己の着物を掴む。 その熱を持った身体に、銀時は逆に熱を奪われたように身体の芯から一気に悪寒が走ったのを自覚した。 これは、まずい。 それは直感だった。 恐らく事態は、己が想定した方向とは百八十度違う方向に転がっていこうとしている。 「浮気だろうが、セフレだろうが、好きにしろよ」 「……え、あ」 「それでもお前の恋愛対象での一番が俺なら……それで満足だ。他にはいらねぇ」 それを言うのなら、自分だって真撰組に勝る物などないのだから、お互い様だ、と。 「いや、え、……ひ、ひじかた? ……っ!」 呆然と名前を呼ぶ銀時の唇に、熱が触れる。 重なるだけのそれはすぐに離れ、熱の籠もった目がまっすぐに、銀時を見つめた。 そして。 「だから、……付き合おうぜ、万事屋」 「…………、はい」 なぜ、この時頷いてしまったのかと。 返す返すも、己の失態に頭を抱えざるを得ない。 だがこのときはあまりにも真っ直ぐなその目に心臓を射貫かれ、もうどうしたって、拒否など出来なかったのだ。 「浮気、しねぇのか?」 「へ?」 半ば押し切られるような形で始まった土方との交際がちょうど二月半に差し掛かった頃。 仕事の合間を縫って万事屋に訪れていた土方からの突然の問いかけに、銀時は思わず間の抜けた返事をしてしまう。 見れば、ソファの上で銀時の隣へと腰掛けた土方が、真っ直ぐな目でこちらを見ていた。 目があったその瞳の中の色に、銀時は思わず目を逸らすように机の上の湯飲みを手に取る。 「な、なんだいきなり」 そもそも恋人に向かってどんな質問をしているのかと笑う銀時に、土方がソファに身を預けたまま煙草を吹かした。 「いや、付き合う前に念押された割りにゃ、女の影が見えねぇから、ちょっと気になっただけだ」 会っても当たり前みてぇに俺を抱くしよ、と紫煙を吐く土方に、銀時は一旦茶で喉を潤した後はぁっと息を吐く。 そうして、あのな、と胡乱な目を向けた。 「そりゃ、俺にも最低限の礼儀くらいはありますからね、お前に存在悟らせるような無神経な真似はしねぇよ」 「公認でもか?」 「浮気のマナーでしょ」 「そんなもんか……?」 問われた所で銀時だってそんなことは知らぬ事だが、そういうもんだと最もらしく頷いておく。 「大体、万が一知り合いだったら亀裂入んだろ、めんどくせぇ」 「じゃあ、俺が知らねぇとこでは、他の奴と寝てんのか?」 「あぁ寝てるぜ。おめぇ忙しくて下手すりゃ一ヶ月顔も見ねぇ事もあるだろ。その間だったら何プレイだろうがやり放題ですからね」 よほどの大ポカをやらかさない限り、バレる方が難しいだろうと。 そう告げると土方はまだどこか納得がいかないような顔をしながらもあからさまな追求は引っ込めたようで。 実際、銀時の性癖は土方を他の第三者に抱かせる事であって、逆に己自身が浮気することにはまったくもって興味がない。 どころか、嫌悪すらのだからある意味その辺りの感覚は正常と言える。 と、いうよりも、むしろ自分が潔癖だからこそ恋人(この場合は勿論土方)の不義を責められるのだ。 常人から考えれば訳が分からない理論だろうが、これが銀時のピントのずれたモラル意識で。 「……でも、」 「あ?」 「お前、俺とのセックスに、満足してねぇだろ」 不意に核心を突いたその言葉に、銀時はどきりとした。 確かに、ただただ幸せに抱き合うだけの関係など、――勿論、それはそれで幸せを感じないわけではないが――今の銀時には物足りない。 顔に出さずとも空気で土方は銀時がそれを肯定した事を悟ったようで、土方は顔を顰めた。 「ほら見ろ。やっぱりなんかあるんじゃねぇか」 「いや、」 「俺ぁテメェの浮気公認で自分も抱かれて、お前は今まで通りかしんねぇけど俺含めやり放題やってんだろ。何が不満だ」 「別に、不満とか」 「俺の身体は、つまんねぇか?」 「ンなことねぇよ!」 咄嗟に反応してしまい、しまったとおもった。 もういっそ、そういう事にして別れ話を切り出してしまえば良かったのにと。 だが、そのにじみ出る必死さに何感じたのか、土方は溜息を吐くようにソファに身を預けた。 「……別につまんねぇならそう言ってくれりゃ、……っても、だからってどうできるわけでもねぇけどさ」 経験値なんて、テメェでしか上げられねぇしと溜息を吐く土方に、一瞬己の中の悪魔が囁きそうになり、慌ててその影を追い払った。 言えば間違いなく、振られる。 それは嫌だ。 別に別れるなら振る方が良い、とかではない。 ただできれば、真相を知っての汚物扱いはご遠慮願いたい。 好きこのんで、この性癖をひけらかすつもりなど銀時にはないのだ。 「そのままで、いいよ。おめーは」 「……っつったって」 「いいんだって。……そんなに気になるなら、これから経験値上げに励んでみる?」 奥の和室なら開いてるぜ、と。 耳元で囁けば途端に顔を赤らめるその初々しさが堪らない。 あぁ、この清純で可愛い生き物が別の人間の色に染められその様を見せつけられたらどんなにか興奮するだろう。 そんなことを頭の片隅で思いながら、銀時は土方の手を引きその身体を私室へと促す。 神楽は昨日からお妙の所に泊まりに行っており、今日は帰ってこない。 明日の昼までは、思う存分この身体を味わえるだろう。 性癖云々を置いておいても、比喩なく土方の身体は極上品だ。 只抱き合うこの関係にどうしても終止符を打ちたいほど、絶対的な不満があるわけではない。 土方は己の身体はつまらないだろうと言って憚らないが、決してそんなことはないのだ。 問題は、己の歪んだ意識ただ一つで。 万年床の煎餅布団の上に、まだ着流しをきっちりと着こなした土方の身体を転がす。 足から滑り落ちた裾から覗く太ももに喉が鳴り、銀時はその腿に指先を這わせながらそっと口元は胸へと寄せた。 裾をほんの少しずらすだけで見え隠れする朱を含んだ突起は既に堅くなりかけ銀時を誘う。 その誘惑に抗うことなく肌に舌で触れ、そのまま堅くなりかけた突起をちゅっと吸い上げた。 「ひ、ぅ……」 ゆるい刺激にぴくりと土方の身体が反応示す。 銀時と情を交わすまで男と寝るなどということは考えもつかなかっただろう土方の身体はどこもかしこも初々しく、銀時の恋情を一層煽った。 恐らく女との経験回数ならば土方の方が上だろうが、その相手は考えるまでもなく玄人がその大半だろうと思う。 勿論素人童貞とは思っていないが、少なくとも仕事柄面倒な一般人に唾を付けるとは考えづらい。 そもそも、こうなった時点でもうどんな女であろうと土方に抱かせるつもりはない。(往生際が悪い話だが、男は保留だ) 胸の粒を丹念に舌で舐めて芯をもたせ、赤く充血するまで何度も何度も吸い上げる。 銀時は早急に事をすすめるのではなく、土方の身体に己との行為で得られる快感や感覚を丹念に教えこみ、己の手垢でベタベタになるまで何度も抱く事を好む。 そうしてある日、その自分だけの癖と手垢にまみれた土方の身体に、誰とも知らない男の癖が紛れ込み聞いたことのない声で土方が喘ぐ事があったとする。 その瞬間を考え、その背徳的な感情と怒りにずくりと下肢が熱を持った。 「あ、っ……よろず……や、」 「土方、ココ真っ赤だな……すっげぇ可愛い」 さんざん胸を弄り回され、それだけで勃起し始めている土方の下肢に己の自身をこすりつければ、こちらが兆していることを知ったのか土方は嬉しそうに笑った。 その笑みに笑みを返し、唇を触れさせる。 脳内を回る空想を実現する勇気はさらさらないが、妄想だけならいくらしようが自由だろうと銀時は割り切っていた。 勿論、総ては土方十四郎という男を愛する故なのだが、恐らく理解される思考ではないだろう、ごく少数の同じ性癖を持つ人間以外。 すっかり擦れて充血した突起に満足しそっと指で触れると、土方はまるでそこが性器にでもなったかのようにびくびくと体を揺らし息を乱した。 これも、己の努力の賜物だろうと思う。 始めの頃は弄ってもくすぐったがる方が大きくそこで覚える快楽はほんの僅かだったようだ。 だが数カ月にわたって何度も何度も行為を繰り返すうち、土方の身体は少しずつ銀時の好みに合わせ変化を始めた。 そんな身体が、愛しくないわけがない。 すっかり立ち上がり涙を零す性器が足の間で揺れ、ちゃんと見せてと耳元で囁けば、土方は戸惑いがちにそっと足を開いた。 背中を布団に預け、膝を立てた両足を自らの意志でゆっくりと開いていく様は、まさに絶景だ。 孤立する土方自身を凝視してやれば、慌てて閉じようとする足を銀時はやんわりと制する。 「ダメ。ちゃんと開いてて」 「っ、でも、よ……」 「でもじゃないの。……な、俺の言うこと聞けないの?」 ほんの少し、上から見下ろすような物言いをすれば、土方は僅かに口を噤んだ後おずおずと足を開いた。 そんな土方の姿を銀時が満足気に眺め、その身体に触れようと手を伸ばした。 その直後のことだった。 肌蹴た着流しから滑り落ちた土方の携帯から、突然その場の空気を切り裂くような電子音が鳴り出した。 同時にチカチカと点滅をする携帯のライトに照らされたサブウィンドウには、『屯所』と表示されており、一瞬にしてその場の空気が変わる。 土方はその表記名に僅かばかり動揺した仕草を見せたが、すぐに気持ちを切り替えたのか着流しを託し上げながら携帯を手にとった。 そして、一度深呼吸をしてから携帯を開く。 「……土方だ」 常と殆ど変わらぬ声音でそう告げた土方の目が、だが直後何か思いもよらぬ事があったのか驚いたように見開かれる。 「……近藤さん?」 そして呟かれたその名前に、銀時は思わず伸びそうになったその手を必死に押し留めた。 電話の向こうはそんな事知る由もないだろうが、今土方は身体を熱に高ぶらせた直後で性器とて完全に萎え切っているわけではない。 着流しは肌蹴、頬も僅かながら赤くなっている。 そんな形相の土方が他人の男の名を呼んで、――これが興奮しないはずがない。 「なんで屯所から……、あァ? ったく何やってんだアンタは」 土方の会話はよどみなく続き、断片的な内容だが恐らく近藤が携帯をなくし、その結果屯所から土方の携帯に助けを求めたのだろう事が伺えた。 熱を散らすためか足を揺らすようにしながら土方は会話の中で何度も近藤さん、と繰り返す。 そんな土方にそのたび興奮を煽られ、程なく電話を切った土方の身体を銀時は衝動のままに押し倒した。 そしてそのまま、先程までは見るばかりで触れもしなかった土方の性器に指先を滑らせる。 「……ひっ……!」 驚いたように身体を揺らす土方の身体に快楽を与えるように、銀時は手のひらで包んだ土方自身を手のひらで扱いた。 突然の刺激に身悶える土方を見下ろしながら、銀時は問う。 「戻るのか?」 会話の内容を聞いていれば、そんな問い必要な事くらいはすぐに分かる。 だがあえて問いかけたのは土方に、電話の内容を喋らせるためだ。 案の定、土方は銀時の指先に翻弄されながら首を振った。 「もどら、ね……」 「でも、ゴリラから電話あったんだろ」 「ちが、こんど、さんは……あぁっ……!」 続く言葉はわかっていて、あえて性器を甚振り遮った。 喉を喘がせながら近藤の名前を呼ぶ土方に眠っていたはずの欲望が唐突に顔を出す。 あぁ、これだと改めて、己の最低な性癖を銀時は理解した。 二人きりの空間で、布団の上で睦み合い、だがその口から発せられる名前は己のソレではない。 ずくりと下肢が重くなり、銀時は衝動のまま土方の足を掴みあげ、顕になった後孔へと指を宛がう。 「ひ、ぃ……あぁっ……!」 土方の口から洩れた声は、明らかに苦痛の混じった嬌声で。 銀時は先走りが垂れ僅かに濡れていたその場所をただ開かせることだけが目的で無理やり入れ込んだ。 「あ、よろ、ずや……っなに……」 「ゴリラは何?」 「……な、なに、が……」 「ねぇ、何の電話だったの?」 恐らく土方は銀時の突然の変化についていくことが出来ていない。 だがそんな土方を混乱の縁から救い上げるような事はせず、銀時は土方の中へとめり込ませた指を半ばこじ開けるように強引に開き、そこに己の自身を宛てがった。 土方の瞳が驚愕に染まり、次いで声にならない声で必死に首を振るその姿に、だが銀時はその手を止める事はしなかった。 僅かに開いた土方の後孔へと押し付けた自身へ力を込め、まだろくに慣らしてもいない土方の後孔へと、先端を半ば強引に押し込んでいく。 ひくりと、土方の喉が震え見開いた目から涙が零れたのを最後に、最後まで繋ぎ止められていた理性は跡形もなく吹き飛んで。 「あ、……ぃ、や……あぁ、……――ッ!」 「土方、……土方、なぁ、……もっと呼べよ」 嫌がるその身体を押さえつけ、近藤でもだれでもいいから、己以外の名を呼べと強要し。 訳もわからずただ痛みと快楽から逃れるのに必死で思いついた名を口にする土方に興奮し、情けも容赦もなく身体を突き上げる。 土方の口から零れ出る男の名前にその人物と土方の行為を想像しては、また高ぶりが増した。 イく時に呼べと強要すれば流石に首を振ったが、それも容赦無い責めで無理やり呼ばせ、その掠れ切った声で呼ばれる言葉にまた興奮する。 最後にはすすり泣きしゃくりあげ、ただわけも分からぬまま謝罪と己の名前を繰り返す土方に漸く満足し、その身体をやっと開放する頃にはもう既に日が暮れていた。 疲れきって布団へと身体を預け、嗚咽と震えの止まぬ土方の身体を見つめ。 そして唐突に、理性が戻った。 「……あ、……あ……ッ!」 目の前にある、間違いなく今己が作り上げた現実。 腰を自ら立たせる力すら失いその後孔から精液を零す土方の姿に、息が止まる。 零れ落ちるソレに混じった少量の赤は無理に後孔を突き上げた事による傷から流れでたものだと気づき、頭から冷水を被ったような寒気に襲われた。 やってしまった。 頭の中に浮かぶ言葉はただそれだけだ。 とうとう、己は身の内に買う凶暴な獣を飼い慣らせずに暴走させてしまったのだと。 それも、寄りにも寄って一番ソレを知られるのが怖い相手に対し、それを強要し、しかもそれによって興奮した汚れた欲望でその身体を穢した。 こんなもの、強姦などよりもよっぽど最低だ。 まともな人間の所業ではない。 今だって一刻も早く土方の身体を綺麗にしてやりたいのに、反面この体をそのままずっと眺めておきたいだろうと囁く声がする。 だがこれ以上土方を傷つけるような真似だけは出来ずに、銀時は恐る恐る、土方の身体に手を伸ばした。 びくりと、土方の身体に怯えが走る。 「……ひ、っ……もう、……」 無理だと首を振る土方に、もうしない、大丈夫だと言い聞かせながら、銀時は土方の身体をそっと抱き上げた。 触れただけで震えるその肢体に、完全にトラウマを植えつけてしまっただろうことに気づき、心臓を鷲掴みにされたような痛みに襲われる。 だが、今はそれより一刻も早く土方の身体を綺麗にしてやることが先決だと、銀時は震える土方の身体を労りながら、その身体をバスルームへと連れ込んだ。 |