銀さんを好きすぎる土方さんのお話。番外 〜初夜編〜




 カッコ仮。
 恋人関係について回ったそんな付加要素を切って丸めてゴミ箱に捨てたのは、遡ること二週間前の事。
 騒動で患った土方の熱はその翌日には綺麗に下がり、あの他に類を見ないワーカーホリックは勿論大事など取ることなく翌日からごく普通に仕事に復帰した。
 その事については、銀時自身、さして文句はない。
 強いていうならば、両思いになって初めて迎える朝に、なんだって腕の中が冷え切った状態で目を覚まさなければいけないのかという、至極真っ当な不満がほんのちょっとあるくらいだ。
 確かになんやかんややった後ではないから、厳密に言えば初夜ではない。
 ないが、間接的初夜みたいなもんだろうと銀時はあの日の夜を勝手にそう解釈していて。
 だが、目が覚めた時、眠気眼に隣に眠る恋人を抱き寄せようとした銀時の腕はいともあっさりと空振りした。
 ペタペタと触ってみれば冷えたその空間にびっくりして飛び起きると、恋人――土方は既に隊服に着替え、文机を前に仕事に励んでいて。

『起きたのか? ならとっとと布団畳めや』

 そして開口一番が、それである。
 昨夜のちょっと目をウルウルさせて俺の腕の中で震えてたかわいこちゃんはどこにいっちゃったのかと、銀時は一瞬本気で総ては自分の夢だったのではないかと狼狽した。
 だが、煙草を吹かしながら仕事に励むその背中をなんとなく邪魔しては悪いような気がして(なぜなら積み上がってる書類の量が尋常じゃない。たった数時間の行方不明でどんだけ傾くんだよこの組はという疑惑が湧く)銀時は素直に布団を畳んだ。

『どこに仕舞えばいいの?』
『後でやる。そのまま置いとけや』
『はーい』

 こちらも見ないまま指示を出す土方に、とりあえず畳んだ布団を部屋の隅に寄せた。
 そして、じっと、その背中を見つめる。
 だが、布団を片してしまえば、銀時がこれ以上この場に留まる理由はない。
 少しだけ考えるように頭を掻いたが、このままここに残る名案など思いつくはずもなく。
 ふぅ、と無意識に小さなため息が漏れた。

『あー、俺、帰るけど』

 そこで初めて、土方が銀時を見た。
 そして、その目に宿る色に、あぁ、やはり昨夜の出来事は夢などではないのだと実感する。
 土方の目には、銀時に対する思いが確かに溢れていた。
 黙って、銀時は土方の前へと膝をつく。
 そしてその紫煙の味が残る唇に、ちゅ、と触れるだけの唇を落とした。
 追いかけるように今度は土方が唇を寄せてくれて、それが嬉しくてもう一度キスをした。

『またな』
『あぁ、……非番、連絡する』
『おー、まってるよ』

 それが、会話の全てだ。
 これを多いと取るか、それとも少ないと取るか。
(いやいや、少なくとも多くはねーだろ)
 とはいえ仕事中に反応をもらえてキスできただけでも御の字というものではないだろうか。
(っていうか、そもそも普通俺が起きるまでは腕の中にいるもんじゃね? そういうもんじゃね?)
 別に、あの日銀時が目を覚ました時間はさして寝坊といえるほど遅い時間ではない。
 一般的な会社ならば通勤ラッシュに引っかかっている程度のごくごく普通の朝だ。
 だが、土方のあの様子と冷え切った布団から察するに、少なくとも半刻以上前には起きていた、ような気がする。
 そんなに仕事が大事かと思う反面、そういう仕事の相手を恋人にしてしまったのだという事実が伸し掛かった。
 そういえば、寝るまではあれほど抱け抱けと騒いでいたのに、去り際はあっさりとしたものだった。
 あれがいわゆる公私の区別というものなのだろうか。
 いや、キスはしたけれども。
 土方なりの何か境界線があるのかもしれないと銀時がなんとなく思考の決着点に近づき始めたその時。
「邪魔なんですが」
 頭上に突如、影が落ちた。
 驚くことはない。
 先程から自分の周りを甲斐甲斐しく走りまわり万事屋の掃除をしてくれていた新八だ。
 因みに銀時は、胸の上にジャンプを戯れに開きっぱなしにしたまま、応接間のソファでだらだらと無駄な時間を貪っていたところである。
 そんな銀時を見る新八の目には、明らかな鬱陶しいオーラが漂っていた。
 銀時はジャンプを脇の机に下ろし、ひらひらと手を降る。
「おーぱっつぁん。風呂場の垢取りは済んだのか?」
「おかげさまで。というわけで次はこの部屋を掃除したいんですが」
「おう。好きにやれや」
「いや、だから! 邪魔だっつってんだろこのマダオ!」
 びしっと頭上に突き付けられたのはハタキだ。
 だが、まだいいじゃねぇかと銀時はごろりとソファの上で身体の向きを変える。
 そんな銀時に痺れを切らしたのか、新八はいいからどけとでもいいたげに銀時自身をこれ見よがしにハラキだした。
 その地味で的確な攻撃に、さすがの銀時も程なく白旗を上げる。
「わーった、わーったよ! ったく、人が考え事してるつーのに、空気の読めねぇメガネだな」
 考え事と言うよりは詮ない思考をダダ漏れさせていただけなのだが。
 敢えて恩着せがましく言えば、だがそんな銀時の物言いには慣れているのか新八もはいはいとそれを受け流した。
「そんなに大事な考え事なら、奥の部屋でも行ってすればいいじゃないですか」
「ここのソファの上が落ち着くんだよ。っていうか、ここ俺の家なんだからどこにいようと勝手だろー」
「生憎ですが、僕にとっては職場で事務所です。僕は万事屋の従業員なので、この応接場は万事屋社員の共有スペースですからね」
 だから、立ち退きを強制する権利もあるんですとメガネを光らせる新八に、詭弁ばっかり上手くなりやがってと内心舌打ちをする。
「はいはい。わーっかりましたよーっと」
 そんなに言うなら今すぐ立ち去ってやらァと銀時は机に立てかけていた愛用の木刀を腰にさし踵を返した。
 目に見えてお出かけですという風貌でガラス戸を開く銀時の背後から、声がかかる。
「ちょっと銀さん! どこ行くんですか!」
「パチンコ」
 別段嘘をいう必要もないだろうとあっさりとした口調で、右手をクイクイと動かしながらそう告げる銀時に。
「……ッ、だから、いい加減働けやこのマダオーー!」
 階下まで響くような新八お馴染みの心の叫びが、万事屋銀ちゃんに響き渡った。



*     *     *



「あーやっちゃった、やっちゃったよー……」
 万事屋の階段を三文の財布で出かけまっすぐに向かった馴染みのパチンコ。
 そして数時間、銀時の財布はなけなしの三文すら奪われすっからかんになっていた。
「あそこでやめときゃなー……いやいや、でもあそこでやんなきゃ男じゃねぇだろ……でもなー」
 口の中に頬張ったよもぎの団子を咀嚼しながら、銀時は戯れに串をゆらゆらと揺らす。
「あー……でも結局このザマだもんなぁ……、……今日の飯どうすっかなー……よし、とりあえずオヤジ、もう一本くれ」
 とりあえずここのツケが効く団子で昼飯は我慢しようと銀時が手を上げた。
 その時。
「懐文無し明言しながら団子要求してんじゃねーよ」
 その声に呼応するように聞こえたその言葉と声に、銀時は驚き顔を上げた。
 逆光を背負ってそこに立っていたのは、仕事中なのかきっちりと隊服を着込んだ土方で。
「……多串くん?」
「土方だ」
 とりあえずお決まりのやり取りと経て、土方は懐から煙草を取り出す。
 ちょうど切れたところだったのか真新しいフィルタを咥え火を灯す様子を眺めていると、奥から親父がブツクサと言いながら団子を持ってきてくれた。
「銀さーん、今月分のツケ、いつ払ってくれるんだい」
「あー、出世払いで」
 適当な事を言って団子にかぶりつく銀時にも、慣れているのか主人はもう何も言わない。
 やれやれと言いながらも奥に引っ込む主人にいつもありがとねーと適当に礼をいいつつ、銀時は土方を見上げた。
 見れば、土方はその場に立ったままマイペースに煙草を吹かしている。
「……すわんねーの?」
 つったってないで、隣に来いと座敷を叩いても土方はいや、と首を振った。
「てめぇが見えたからきただけだ。今日は団子が食いたいわけじゃねぇ」
「あ、そうなの……」
 土方の言葉に、仕事中ではないのだろうかと疑問がわき、そういえばと思いだしたのは今の時間帯で。
「それよりてめぇ、昼飯食ったか?」
 次いでその考えを肯定するようにそう問われれば、銀時は桜色の団子をほうばりながら問うた。
「いや、まだ。っつーか、……昼休憩?」
「そうだ」
 問いはあっさりと肯定される。
 そして、昼飯がまだだという銀時の言葉に、少しだけ土方の表情が柔らかさを増した。
「一緒に喰わねぇか?」
「……銀さん文無し……」
「聞いてた。別にそんくらい奢ってやる」
 だから来いよと、告げられる言葉に思わずおお、と感心する。
 流石高給取りの幕臣様だ。
 もしここで己がフランス料理のフルコース食いたいとか言ったら、連れてってくれるんだろうか。
 だが、さすがに昼からそれでは胃が持たれるし、第一そんな上流階級の料理、銀時の舌には合わない。
 銀時は最後の団子を口の中に放り込み席を立った。
「だったら、親父んトコいこーぜ」
 そう言えば、土方もそれがどの親父かはすぐに察したらしく。
「あぁ」
 顔に隠しきれない笑みを浮かべながら、はにかんだように頷いた。
 なんだ、やっぱりこいつ俺のこと大好きなんじゃねーか、と、銀時は少しだけ胸を撫で下ろす。
 あれほど猛アタックを受けてまだ不安なのかと自分でも呆れているが、いかんせんどうもあの朝を引きずっているように思うのだ。
 勿論、それでこの仲を揺るがすような事をするつもりなど、ないのだが。
 宇治銀時丼と土方スペシャルを常駐メニューとしてくれている親父が営む定食屋は団子屋からさして距離はない。
 平日の往来を土方と二人で歩くのは、その真っ黒な制服も相まって、かなり目立つ。
 だが別に連行されているわけでもあるまいし、堂々としていればいいのだと銀時は隣を歩く土方を見やった。
 先程口元に銜えていた煙草は、歩き出したのを合図に灰皿へと捨てたらしい。
 流石におまわりさん自ら条例違反をするのはまずいのだろう。
 私服ならまだしも、制服ではその言動の影響が全て真撰組に跳ね返ってくるのだ。
「そいや、相方さんは?」
 ふと気になって、銀時は見廻りのもう一人はどうしたのかと問いかけた。
 真撰組の市中見廻りは、基本的に二人一組で行われる。
 その相手はローテーションらしく、馴染みの沖田だったり、原田だったり、はたまた教習のためか一般隊士だったり様々だ。
 そして基本的に見廻り中は二人で一緒に行動している事が多いため、その片割れだけがこうして出歩いていることは稀で。
 なんとなく、なんとなくアレかなぁ……と予想をつけながら問いかけた銀時に、土方は溜息をついた。
「サボりだ」
「沖田君?」
「そうだ」
 やっぱり、と銀時は思わず笑った。
 あの自由奔放なドS王子は、今頃どこかの日向で惰眠を貪っているだろう。
「自由だねぇ、相変わらず」
 笑い混じりにそう言う銀時に土方は笑い事じゃねーよと溜息をついた。
 そうこうしているうちに定食屋の暖簾が見え、二人は店の扉を潜る。
 店に入ると、定食屋の親父がカウンター越しに二人へと声を掛けてきた。
「いらっしゃい! おや、旦那方お揃いで」
 その言葉に、そういえば、偶然出くわすことは多かったが待ち合わせてこの場所に来るのは初めてであることに気付いた。
 友人と呼ばれる間柄になったあとも、昼の時間に待ち合わせて食事に行くことなど今までなかったし、なんとなくこの場所では偶然会う物だ、という頭があったのかもしれない。
 二人は曖昧に笑ってその言葉をいなし、カウンター席へと腰を下ろした。
「「いつもの」」
 声がハモる。
 親父がはいよ、と笑った。
 程なく二人の前に商品コールと共に宇治銀時丼と土方スペシャルのどんぶりが置かれる。
 その見た目から強烈なインパクトに馴染みでない客は一瞬たじろぐように身を引いた。
 常連客は、あぁ、またアレかと苦笑いを浮かべながらそれを見やっている。
 そして当の二人はそんな周りの反応はどこ吹く風。
 なにもかもはいつも通りで、ただ一つ違うのはその二人が犬猿の仲から友人を経て、恋人にランクアップしたことだけ。
 いただきます、と手を合わせ、二人で丼飯を胃の中へと掻き込む。
 あんこの甘さと炭水化物の淡泊さがあわさって広がる甘味はやはり最高だと自然に口元が緩んだ。
「休憩、何時までなんだ?」
 茶を飲んで一息つく合間に問いかけると土方はこちらへと顔を向けた。
「半までだ」
 ちら、と時計に目線を滑らせれば、長針丁度九の辺りを示している。
「ふーん。因みに次の非番は?
「何事もなければ、来週の十二」
「そう」
「しねぇ?」
「へ?」
 まるで普通の会話の流れの中で、するりと入り込んだその土方の言葉に。
 数秒後、銀時は盛大に噎せた。
 だから、突然脈絡もなく何を言い出すんだこいつはと手ぬぐいを使って口元を拭う。
「おいなにやってんだ、きったねぇなぁ……」
 ガキかお前はなどと良いながら衝撃で零れた茶を拭ってくれる土方に、いやそのフォロー精神をもっと別の場所で使えと銀時は頭を押さえた。
「なにやってんだっつーかおめぇが何言ってんだ」
「んだよ、別におかしいこといってねぇだろ」
「……あー、まぁ、……うん。とりあえず、食え」
 その話は後で、という空気を醸し出しながらそう言えば、土方もそれを察したのか無言で丼飯を口に掻き込んだ。
 程なく二人で食事を終え、宣言通り土方は二人分の勘定をカウンターに置く。
「ごっそさん」
「またくるぜ」
「お待ちしとりますよ、旦那方」
 気の良い親父の見送りを受けながら、銀時は土方と並んで店を出た。
 店を出て暫く歩き、銀時は目線だけで土方を促し人気のない路地裏へとその身を誘導した。
 通りから一本裏に抜け、更に建物の間をするりと抜ければ、昼間といえど人気は殆どなくなる。
 銀時は程なく行った所で自然に足を止め、土方の方を振り返った。
 土方も銀時の動作にそこが目的地だと察したのか、壁に背を預ける。
 そうして、周りに誰もいない事を確認すれば煙草へと手を伸ばした。
「初めに言っとくが、別にやること自体に異存はねぇぞ。むしろしてぇ」
「……あぁ」
 ふーっと紫煙を燻らせながら、土方は頷く。
「ただ、一個だけ確認しときたいんだけどな」
「なんだ」
 やはり何か不満があるのかと不安げな顔をする土方に、違うと銀時は首を振った。
「場所だよ。おめぇとどこで致すかっつー話」
 割りと重要だろ、と付け足せば土方も銀時の懸念を察したらしいく、納得したように相槌を打つ。
 銀時は壁に背を預け煙草を吸う土方の正面の壁に同じように寄りかかった。
「あぁ、……そうだな」
「正直、屯所はあぶねぇだろ」
「………わーってる……」
 そこで迫った前科がある所為か、土方はどこか気まずそうに同意する。
 目を伏せる様子にそこはもう気にすんなと、銀時は首を振った。
「そんでもって、万事屋も多分あぶねぇ」
「チャイナか」
「そ。まぁ、前もって言っとけば恒道館に行かせとくのはできっけど……正直いきなり帰ってこねぇ保証はできねぇ」
 あそこはあいつの家でもあるからなと、銀時は溜息をつく。
 さて、どうするかと問うように土方の方を見る銀時に、土方はふっと煙を吐き出し灰を弾いた。
「だったら、ホテルで良いだろ」
 もう二人ともいい大人なのだから、入ったところで特に問題はないという土方に、銀時は息を吐き出した。
「やっぱ、そうなるよな」
「なんだ。なんか不満か」
「えーっと、そのー……」
 歯切れの悪い己の言動に、土方の顔に不安な色が過ぎる。
 時間がないのだから早く言えと、言外にそう告げる視線に晒され、銀時は渋々両手を顔の横で組み、精一杯下手に出た姿勢で、言った。
「…………、奢り?」
 途端、それまで不安だった土方の表情が、呆れと怪訝に変わる。
「…………」
「ちょ、その顔!」
 何もそんな顔をしなくてもいいではないかと反論する銀時に、土方は小さな吐息と共に紫煙を吐き出す。
「別に奢って貰おうとも思ってねぇしテメェの懐具合に今更期待なんざしてねぇが、その端からタカろうっつー根性が気にいらねぇ。よって割り勘」
「大変申し訳ありませんが出して頂けませんか土方様!」
「てめっ……ホテル代タカろうなんざプライドねぇのか!」
 そんなことを言われても、年中すっからかん状態の銀時の財布から、ホテル代などと言う嗜好用の金が捻出できる余裕はない。
 日夜の稼ぎは全て化け物の胃袋を持つ神楽と定春の食事であっという間に消えていくのだ。
 それさえなければせめてもう少し余裕だって出来るというもんである。
 今更文句など言わないが。
 だがしかし、金がない事実に変わりはない。
「うるせぇ! プライドで金稼げりゃ苦労しねぇんだよ! っていうか俺がホテル代稼ぐの待ってたら土方君が困るんじゃないかと俺は思いました! あれ、作文?」
「うぜぇぇ! あれ、作文?じゃねえよ! 働けや腐れ天パ!」
「なっ、!」
 久しぶりに浴びせられたそのお馴染みの罵倒に、銀時の思考が一瞬だけ停止する。
 その言葉聞くのが久しぶりな理由なんて、わざわざ考えずとも思い当たった。
 お試し期間の三ヶ月ほどの間、土方が意図的に銀時への罵倒を避けていた所為だ。
 仮契約中、土方は常に銀時を立てる言動が多く、喧嘩はしても罵声を浴びせてくることは殆どなかった。
 それがここにきて、その態度が綺麗さっぱりリセットされている。
 一瞬止まった思考を強引に動かし、銀時は咄嗟に反論した。
「は、働いてますー! そんでもおっつかねぇんだよ! うちのエンゲル係数なめんなコノヤロー!」
「どーだかな。今日だって平日だっつーのに昼間っからパチンコだろ。むしろテメェが社会人なめんな」
 何か、覚えがあるこの会話。
 それはまだお試し期間を始める前の、友人同士だったときの会話に限りなく近い物で。
「ちょ、お前、なんか思い返せば本契約してからこっちどんどん態度が逆行してねぇ!? あの俺の胸に擦り寄って好き好き言ってた可愛い土方君はどこにいっちゃったんですかぁあ!?」
 目に涙の膜を張り好きだと震えながら訴えてきた子供のような土方。
 その面影を追い求める銀時に、土方はこれみよがしにふーっと紫煙を吐き出した。
「生憎ですがそちらはお試し期間専用の特別オプションとなっております」
「計算か! アレは計算だったのか!!」
 ひょっとして盛大に図られたのかとショックを受ける銀時に、土方は一瞬驚いたように目を見開き。
 だがすぐにくすりと笑みを浮かべ灰を落とした。
「囲っちまえばこっちのもんだろ。後は既成事実だけだ」
「囲うとか言うんじゃありません! はしたない!」
「おかーさんかオメーは」
 初心だ初心だと思っていた土方の言動が信じられずに言葉にならぬ声を上げながら銀時は頭を抱える。
 だが、暫くその様子を楽しそうに見ていた土方が、ふと深いため息を吐いた。
「っつーか、マジでてめぇアレが俺の演技だと思ってんのか」
 呆れた、と言いたげなその言葉に、銀時は顔を俯かせたままむっとする。
「ちげーっていうのかよ……否定しなかったじゃんか」
「肯定もしてねぇだろ。っつーか……そんな余裕あるかよ」
 ふいに、土方の声質が変わる。
 それは、お試し期間中に何度も聞いた、土方が酷く緊張している時のもので。
 ふわ、と土方の指から落ちたタバコが地面に触れ、それを土方の靴の先がぐちゃりと踏み潰す。
 だがそれを最後まで確認する前に、土方が銀時の胸へと抱きついてきた。
「え、え、えぇ! ひ、ひじかたくん!?」
 触れた土方の身体はわずかに熱を持ち、密着した肌から伝わる動悸はそれが演技などではなく土方の本心であることを伝えている。
 そうして発せられる声は、わずかに震えていて。
「俺はいつだって……テメェに必死だよ……」
「あ……」
 首に手を回し、より一層体を寄せる土方の所作に、銀時は慌ててその背中へと手を回した。
 そうして先ほどまでの土方の言動が、己を誂うための意地を張った演技である事を察した。
 もし、この動悸や熱を持った身体が演技だというのなら、もういっそ騙されてやろうと思う。
 恐らくもう、そんな誤解など絶対にしないだろうが。
 その時、不意に身じろいだ土方が己の首筋に口元を寄せたかと思うと、そのままべろりと、露出した素肌に舌を這わせた。
 びっくりして、思わず銀時は衝動的にその身体を引き剥がす。
「うわっ! 何してんだコラ!」
 空気が触れれば僅かににその部分だけが冷たさを感じ、見えなくとも間違いなく舐められたのだとわかる。
 慌てる銀時に、だが土方がそんな動揺はどこ吹く風で。
「……ツバ付けとこうかと」
「例えだそれは! っていうかそんなことしなくてももうお前のだからね!」
 だからこんな事、する必要ありませんと言い聞かせる銀時に、だが土方はむっとしたように眉を潜めた。
「知ってる。でもそんなこと言ったっててめぇの周りは女ばっかだ。行く先々で男女関係なくたらし込みやがって……どうせ、ハーレムみてぇな生活してんだろ」
「何それどんな誤解!?」
「だからこそ、これは俺のだって主張しとかねぇとなぁ」
「いや、あの、聞いてる? 土方君」
 妙に説得力のある口調で自分の理論に一人で納得している土方に、事実を訴えようとしているのだがどうにも言葉が届かない。
 土方は銀時の言葉など右から左といった風に、その指先でインナーを深く開けた銀時の胸元をゆるりと撫でた。
「とにかく、身なりくらいは気ぃ使え。こんなエロく胸元空けやがって……、誘ってるって誤解されたらどうすんだ?」
 そして、この発言である。
 銀時は思わず、素で顔を引き攣らせた。
(前言撤回……どこいっちゃったどころか悪化してるよコイツ……いや、別の意味でどっかいこうとしてるよ)
 だが、思い返してみれば土方は『自分が生粋のマヨラーである』が故に、世界中の人間が重度のマヨネーズ好きだと思っている、らしい(近藤談)。
 それは言い換えれば、自分が好きなものはみんな大好きであろう、という至極単純な思考回路からなるものだ。
 つまり、今土方に猛烈なまでに好かれている己は、土方の脳内では引く手数多のモテモテ野郎になっている、ということだろうか。
 嬉しいんだか悲しいんだか、正直微妙な気分である。
「……わかった。気ぃつけるよ……」
 だがここはなんだか逆らわないほうがいいような気がして、銀時は素直にインナーの合わせを少しだけ上げた。
 わずかにキツくなる胸元に、土方は満足気に口角を上げる。
「よろしい。……まぁ、素直なお前に免じて今回は俺が金出してやるよ」
「へ……? あ、あぁ! ありがとな」
 一瞬何の事だったかとうろたえ、だがすぐにそれがホテル代の事だと思い当たった。
 そうだ、そういえばそんな話だったと今更ながらに主題を思い出す。
 だが、礼を言う銀時に、土方が急に歯切れ悪く唇を撫でた。
「あぁ、ただ、……その代わり、頼みがある」
「ん? なんだ?」
「その……俺ぁ、そういう場所にはあんま明るくねぇ。どっか、信用のおけるトコとか、ねぇか?」
 銀時にまた自然と身を寄せながら話しかけてくる土方に、その腰へと再度手を回しながら銀時は思考を巡らせた。
 確かに、銀時はまだしも土方は真選組の副長として顔が売れている。
 うっかり適当な安宿に入ろうものなら、あっという間に噂が広まってしまうだろう。
「あー……、……ちっと歩くけど、それでよけりゃツテが効く店がある。前に依頼で世話したとこなんだけど」
「お前が大丈夫だと思うなら、そこでいい」
「ん。じゃあ、非番に『炭屋』の前で待ち合わせようぜ。時間は……」
 何時ならば土方の負担にならないだろうと言葉を濁す銀時に、土方はそうだな、と言葉を引き継いだ。
「前日は日勤だ。何事もなけりゃ十七時にはあがれる」
「じゃあ、上がったら連絡くれ」
「わかった」
 ふ、と顔に影が落ち、そのまま唇が重なる。
 その煙草の残り香を残す唇をぺろりと舐め、驚いたように離れた唇を追いかけ、啄むようにキスをする。
「万事屋……」
 熱のこもった土方の声に促され、もう一度唇を、今度は深く合わせようとした、その時。
 土方の胸元から、無機質な電子音が鳴り響いた。
 二人の間に割って入ったその音に、土方はすぐさま銀時から離れ携帯を手に取る。
「土方だ」
 通話ボタンを押し応答する土方は、既に完璧な真選組の副長で。
 先程まで己に縋り熱を持て余していた姿は微塵もない。
 だが、それが演技だからではなく、意図的に押し殺しているものなのだということも、今はきちんと理解している。
「場所は?……あぁ、……あぁ、わかった。俺はこれから向かう。屯所に詰めている一番隊から五名を選んで現場に向かわせろ。俺がつくまでは動くな。今、総悟もそっちに向かわせる。……わかった、気をつけろ」
 何やら指示を投げ、土方は携帯のを切った。
 そうして、それを懐にしまい、銀時の方を振り返る。
「悪ぃ、戻るわ」
「おー、お仕事頑張って」
 笑顔でひらっと手を降れば、土方も笑みを浮かべる。
 不意に土方の身体が銀時の方へと寄せられ、気付いたときには掠めるようなキスを奪われた後だった。
 銀時が明確な反応を返す前に、踵を返した土方は駆け足でその場を去ってしまう。
 文字通り奪われたキスに思わず唇を押さえ、銀時は顔に襲う熱を散らしながらにやける口元を必死で覆い隠した。
 幸せだと、心からそう思う。
 願わくば、どうか少しでもこの時間が続きますようにと。
 銀時は土方が去っていったのとは逆方向へと、踵を返し狭い路地裏を後にした。



*     *     *



 路地裏で土方と別れてから一週間後。
 銀時は宣言通り『居酒屋・炭屋』の前で土方を待っていた。
 一週間前に初雪が降ったばかりの江戸は相変わらず厳しい寒さで、だが幸いなことに今日は雪は降っていない。
 歓楽街を少し外れたこの飲み屋の周りには時事的なクリスマスイルミネーションも呼び込みの人間もおらず、閑散としている。
 そんな場所でもこの店が商売を続けていられるのは、偏にここの炭焼きの焼き鳥が絶品なおかげだろう。
 例に漏れず銀時も何度か土方の奢りで訪れたことがあり、今でも美味い焼き鳥が食べたい時はこの店によく足を運ぶ。
 有り難いことにテイクアウトもやってくれるため、多少懐に余裕がある時は神楽への土産に買って行ったりすることもあった。
 だが、今日の目当ては残念ながら焼き鳥ではない。
 これから己は焼き鳥などよりももっと極上のフルコースを食しに行くのだ。
 風呂で垣間見た土方の肌を思い出せば、無意識に喉が鳴る。
 女性のように滑らかなわけでも、特別色が白いわけでもない。
 むしろ肌だけで言えば客観的に見れば銀時のほうがよっぽど白い。
 勿論仕事柄身体には刀傷がそこかしこに付いているし(だが流石侍というべきか、背中は綺麗なものだ)筋肉だって人並みにある。
 当然、腹筋も割れている。
 おおよそ、『守ってあげたくなる』ような身体ではない。
 むしろ女子からすれば『守って欲しくなる』『抱いて欲しくなる』身体だろう。
 そんな身体に欲情し、あまつさえ腕の中に収め守ってやりたいと、そう感じている自分がひどくおかしい。
 きっと、守ってやりたいなんてあの男に言えば、烈火のごとく怒り狂うだろう。
 俺はそんなに弱く見えるのかと、激昂するに決まっている。
(そういう意味じゃ、ないんだけどなぁ……)
 きっと、説明した所で理解し難い目をされるような気がした。
 だが、気持ちのベクトルは違えど土方が近藤に感じているような気持ちと、性質は同じだと理解しているのだが。
 炭屋の入り口脇に突っ立ったままそんな詮ない思考をつらつらと遊ばせていると、不意にこちらに向かって走る足音が聞こえた。
 見れば、着流しにマフラーを身につけ、羽織を羽織った土方がこちらへと駆けてくる所で。
 その暖かさを重視した出で立ちに無意識にほっとする。
「よっ、お疲れさん」
 銀時の元へと走り寄る土方に軽く手を上げ声をかける。
「わりぃ、待たせた」
「いや? 時間ぴったりじゃねぇの」
 気にしない気にしない、と銀時は土方に笑みかけその場から踵を返した。
 すぐにでもその場を立ち去ろうとする銀時に、土方が黙って後を追う。
 炭屋から二人で無言のまま歩き、暫く行くと江戸でも郊外の宿町の風景が広がる。
 その寂れた一角で、銀時は歩を止めた。
 ほんのりと紅い光に照らされた見た目には普通の宿。
 だが、その作りを見ればそこが普通の宿ではなくいわゆる『連れ込み宿』であることはすぐに分かった。
 少しだけ奥まった形に造られた入り口を入ると、石畳の向こうに古めいた引き戸が目に入る。
 銀時が戸惑いなく引き戸を開ければ、外観の古めかしさとは裏腹に中づくりは新しく勿論フロントも対面式ではない。
 部屋を選んで鍵を受け取り、銀時は慣れた様子でさっさと階段を登りはじめた。
 何となく喋ってはいけないような空気を感じているのか、銀時も、そして土方も口を開かない。
 迷いない足取りで部屋へと向かい、銀時は渡された鍵を使い扉を開けた。
 土方が後について入ってきたのを確認し、ぱたん、と扉を閉じる。
 ほっと、土方が息をついたのに気付き、恐らく無意識だろうその所作に自然と笑みが漏れた。
「……緊張してる?」
 顔を寄せ、問いかければ土方の頬に僅かな熱が集まる。
 朱の差した顔のまま、土方は僅かに顔を俯かせた。
「緊張っつーか……、信じらんねぇ」
「何が」
「こんな、場所で……てめぇと二人でいんのが……」
 まだ、夢でも見ているようだと。
 顔に熱をもたせたままでそう告げる土方の身体を、銀時は正面から抱きしめた。
 今、己は間違いなくここにいる。
 それを、勝手に。
「夢なんかにされてたまるかっつーの」
「っ、万事……」
「ほら、おいで」
 ぐい、と肩を引き土方の身体を促す己の心中に、思ったよりも余裕が無い事が少しだけ笑える。
 畳敷きの部屋の中央には連れ込み宿らしく綺麗に整えられた布団が一式敷かれており、銀時はその布団の上に土方の身体を座らせた。
 未だマフラーと羽織りを身につけたままの土方の身体からそれらを順番に外し、己のそれも一緒に脱げば部屋の隅へと放る。
 生憎と畳んで枕元になどという余裕があるはずはなく、銀時は着流しも脱ぎ捨てインナーだけの格好になった。
 そうして、銀時は改めて土方に向き直る。
「土方、……刀、外していいか?」
 こんな場所にくるにも拘らず、それでも肌身離す事無く身につけられている土方の刀。
 それは、土方の魂と言っても過言ではない。
 先ほど羽織を脱ぐ際に己の木刀はすでに布団の脇へと置いてしまった。
 だが、土方から刀を一時でも他人の手で取り上げることは、恐らく己が想像する以上に一大事な事だろう。
 それでも、問いかければ戸惑いながらも、首を縦に振ってくれる土方に愛しさが増した。
 まるで、銀時が傍にいれば、刀がなくても大丈夫だと思うのだと、そう言ってくれているような気さえする。
「ありがとな……、じゃあ、外すぞ」
 もう一度頷く土方の腰から村麻紗を引きぬき、傷つけないように丁寧に、土方の利き腕側の脇へと置いた。
 手を伸ばせば、いつでも触れられる位置に。
 それに気付いたのか、土方の顔が少しだけほっとしたように緩まる。
「……万事屋……」
 余裕なく己を呼ぶ土方の声に、銀時は顔をそっと近づけ、唇を合わせる。
 寒い外を歩いてきたせいか、土方の唇はカサカサに乾いていた。
 それが何となく可哀想に思え、銀時は舌でその唇を濡らすように舐める。
 そんな銀時の所作を誘いのように感じたのか、土方の唇が誘うように開かれた。
 柔らかな唇の向こう側に、熱を持った舌が僅かに見え隠れしている。
 それに触れたい衝動に駆られ、銀時は口を控えめに開いたまま覆うように土方の唇を塞いだ。
 開かれた隙間から、舌を差し入れ、絡ませるようにして己の口内へと導く。
 舌を絡めて口内で遊び、緩く吸い上げ一度離す。
 だが、それとほぼ同時に舌を引いてしまう土方に、銀時は何かを思いついたように土方の両頬に手を添えた。
「ね、土方。舌出して」
「……は?」
「いいから」
 早くと急かす銀時に、土方は何のことかという顔をしながらも素直に舌を出してくれた。
「引っ込めんなよ」
 念のためそう釘を刺し、銀時は差し出された舌にそっと顔を近づける。
 そして、その舌をまるで咥えるように口内へと導いた。
 驚いた顔で思わず舌をひこうとする土方の舌をきゅう、と吸い上げ、銀時は上目遣いで土方を見上げる。
 目線だけでダメだという事をもう一度伝え、そのまま舌をまるで性器を愛撫するかのように己の舌で刺激した。
 裏筋を擽り、舌で舌をなぞったり、わざと音を立てて吸い上げ、軽く噛み付く。
 自らの意思で舌を伸ばしたままにしなければいけない土方はその舌へと与えられる愛撫に着流しの下で身体に熱を篭らせ、口の端から声を漏らした。
「ん、ン……ッ!」
 一際強く舌を吸い上げてやり、土方の舌の上で唾液が混じり合った。
 粘着質な音を立てながら何度も舌に愛撫を施し、漸く執拗な刺激から開放された土方は思わず口を抑え声を漏らした。
 恐らく、今頃口の中では舌が痺れて性感帯のようになっているだろう。
「……どう?」
 気持よかった?と戯れに問いかける銀時の言葉に、土方は手を口で抑えたまま小さく頷いた。
 顔には先程よりも明確に朱色が差し、その目は既に快楽を伴って蕩けている。
 必死に顔を隠そうとする土方の仕草に煽られ、銀時はその両肩を掴んで体重を乗せる。
 よそ見をしていた土方の身体はあっけないほど簡単に布団の上へとあおむけに倒れこんだ。
「顔、ちゃんと見せて」
 押し倒した土方の顔を正面から見据え、漆黒の瞳に緋色を写し込みながらそう告げる。
 土方はまだ舌に痺れが残っているのか、唇を無防備に半開きにしたままでこく、と頷いた。
 正直、生まれてこの方男を抱いたこともなければ、抱こうと思ったこともない。
 だが哀しいかな、男を抱くためにはどうすればいいかという知識だけは、恐らく必要程度には持ち合わせている。
 それは攘夷戦争時代、男しかいない戦場の最中で快楽を満たそうと思えば衆道に身を染めるのが最も手っ取り早い方法だったからだろう。
 幸か不幸か銀時にその手の欲求は芽生えず、周りの男達が快楽に溺れる様もまるで不感症のように見守っていたのを覚えている。
 別段嫌悪感はなかったし、明日をも知れぬ生き方をしている仲間が一瞬でもこのつらい現実を忘れられるための手段ならば否定することもないと感じていた。
 勿論、それは自分に被害が飛び火しなければの話だ。
 そういった行為が公然化してきた頃、『白夜叉を抱けばその戦歴に肖れる』だの『白夜叉に抱いてもらえれば次の戦では生き残れる』だの、迷惑極まりない噂がまことしやかに流れだし、連日逃げまわるのに苦労したものだ。
 ただでさえ夜叉などという人間ではないものに例えられ辟易しているというのに、これ以上神格化されては堪らない。
 唯一救いだったのは、彼らが己を戦の糧にしているが故に無理強いだけは絶対にしなかったことくらいだろう。
 嬉しくもなんともないが。
 そのうちそんな輩を適当にいなすことも覚え、そして時と共に戦績は悪化の一途を辿りそんな余裕すらなくなった。
 そして残されたその衆道の知識を、まさかこんな形で実践する気が来ようとは、人生とは本当に何が起こるかわからない。
「万事屋……」
 消え入りそうな声で己の名を呼ぶその唇に、触れるだけのくちづけを落とす。
 銀時の指先は土方の素肌をなぞり、中途半端にはだけた見頃を掴んで左右に開いた。
 淡い光の中に浮かび上がる土方の肌に触れると、じんわりと熱を篭らせたその上半身に、小さな突起が二つ、目に入った。
 見頃を割り開いた指先で優しく触れてみると、そこは意外にも固く芯を持っていて。
 もう一度今度は少しだけ力を入れて押せば、土方が身を捩った。
「……ッ、ぁ……」
「ここ、感じるの」
 反応を返してくれた事が嬉しくて、指先で捏ねるように弄りながら身を屈めた。
 銀時の意図を察した土方が小さく声を上げたが、構わずにもう片方のそれを口内へと導く。
 先ほど舌を愛撫してやった時のようにたっぷりと唾液を絡ませ、吸い上げた。
「ひあぁっ……ン、ンン……!」
 その刺激に土方は思わず口元を抑え身を捩り、銀時は突起を舌で触れたまま顔を上げる。
「すっげぇ反応……、なぁ、ひょっとして……自分で弄ったりしてんの?」
 その言葉は半分は冗談だった。
 なにしろ土方と銀時は同じ男で、付いているものは特徴こそ違えどほぼ同じだろう。
 だが、銀時には胸を弄られたくらいでこんなふうに身体を熱くするような習性は恐らくない。
 弄り回された事などないからわからないが、多分ないだろう。
 このあたりの不確定さが『半分』冗談の理由だ。
 もし誰でもそうなるのであれば、きっと土方のことだ、反論してくるだろう。
 だが、もしそうでなければ。
 戯れに口にした己のカマかけが、真実であれば。
「……ひ、っ……ぅ……」
 きっと、酷く土方は焦りだすだろうと。
 銀時は土方の反応が後者であったことに満足気に口角を上げた。
 告白当初、友人関係になる前から己に恋焦がれているのだろ土方は言っていて。
 それが本当ならきっと、自分を思って自慰の一つや二つしているだろうというのが銀時の自惚れではない予想だ。
 男は女と違って明確に溜まれば吐き出す他熱を収める方法はない。
 増して好きな人間がいるならば、尚更だ。
 あたふたと、目を泳がせだした土方に、これは一度や二度ではなさそうだなとこっそりにやけた顔を手のひらで覆い隠した。
 土方はきっとこれから酷くからかわれるのではと焦っているかも知れないが、生憎とこっちだってそんな余裕はない。
 何しろ何もかもが初めてで、どう触れたらいいかと総てが手探りなのだ。
 そしてこんな時発揮されるのが告白当初でも発揮された口から出任せの口上だ。
 何も考えなくともそれらしいことがペラペラと出てくるこの性質は、どうも相手に自分は余裕だと錯覚させる力があるらしい。
「へえ、ほんとに? ……可愛い」
 そう呟き、もう一度口内へと突起を含む。
 唇で摘んだり、軽く歯を立てたりしながら愛撫を施せば、それまで所在なさげに布団の上で揺れていた土方の腕が、ゆっくりとあげられ銀時へと伸ばされた。
 控えめに、だが縋るように触れるその様がどうしようもなく可愛くて、銀時は控えめなその腕を掴み、指先にくちづける。
 す、と身体を引いて着流しを探り、ゆるまった見頃に隠れた帯の端を掴む。
「あ、っ……待て、よろずっ……!」
 静止する土方の声を無視ししゅるりととけば、風呂場の時とは違い今度はあっさりと土方の裸身が顕になった。
 そしてその中心で下着に覆われた土方自身が、既に硬さを増し熱を零している。
 扇情的なその様に知らず、ごくりと喉を鳴らし、銀時はそれをごまかすように土方を抱えあげるようにして袖を抜かせた。
「汚れるから、脱がすぞ」
 恥ずかしげに身を捩る土方もここにきては明確な抵抗もせず、素直に着流しを脱いでくれる。
 羽織りの上にほうり投げ、次いで下着を有無を言わさず強制的に脱がせた。
 身を纏うものが総てなくなれば、土方の身体をもう一度布団の上へと寝かす。
 下着を濡らしていた土方自身は先程までの刺激で既に先端を濡れさせていた。
 必死に顔を隠すその腕を掴み、体を寄せる。
「んな隠すなっての。……なぁ、顔見せろよ」
「っ、なんで、……俺ばっか、……てめぇも脱げッ!」
 腕を掴む銀時の手に抵抗しながらの土方の訴えに、なるほどそれでと銀時は納得する。
 さして頓着もしていなかったが、土方が気になるというのなら致し方ないだろう。
 銀時は着たままだったインナーとズボンをさして抵抗もなく脱ぎ捨て、ついでに下着も放れば土方に覆いかぶさった。
「はい。これでお揃いだろ? ……な、顔上げて」
「……っ、」
 脱げと訴えた己の言葉を実践してくれた以上、抵抗する理由が見つからないのか、土方がおずおずと腕を外す。
 腕に隠されていた赤みを増した唇を覆うように塞ぎ、銀時の手は既に反応し始めていた自身へと伸ばされた。
 熱を持ち硬さを増しているその裏筋を親指でなぞり、次いで全体を手のひらでこすれば、口からは途方もない喘ぎが漏れる。
 ひく、と熱を持って震えるその部分に、銀時は己の自身も熱を増すのを感じながら、土方の耳元で囁いた。
「辛そうだな……、一回イっとくか?」
 だが、銀時の気遣いにも、土方は恥ずかしいのか首を振るばかりで。
 試しに少しだけ力を入れ扱いてやっても、土方は逆に放出を嫌がるように身体を固くした。
 いやいやと射精に抵抗するように首をふる土方に、銀時は指先で自身をなぞりながら、土方の耳元に唇を寄せた。
「我慢すんな。辛ぇだろ……?」
「っ、いいって、いってんだろ……!」
「なんだよ、ヤなの?」
 俺にイかされんの、と銀時が問えば、土方は口から喘ぎに似た声を漏らしながら耐えるように身を固くする。
「ヤ、っつーか………、出すと、冷静になりそう……」
「………あー……」
 切れ切れな声で訴えられたその言葉に、銀時は思わず手を止めた。
 その感覚には、一理あるとそう思ってしまったから。
 何かを放出するわけではない女の絶頂と違い、射精を伴う男の絶頂にはその後に少なからず冷却時間のようなもの訪れる。
 そうなる諸説はいろいろあるものの、どちらにしろそうなってしまえばもう一度仕切り直し、熱を上げなおさなければいけない。
「めんど、くせぇし……今、冷静に、なりたくねぇ……」
 我に返ったら恥ずかしくて死ぬと、そう訴えられればそれ以上強要することもできない。
 なによりやる気メーターが振り切っている今の状態で、土方だけ正気に戻られたらそれもそれで寂しい。
 銀時は仕方なく土方自身への刺激を中断し、その代わり濡れた指をそのまま尻の割れ目にそって滑らせた。
 女のように丸みがあるわけでもない、どちらかと言えば堅さが目立つ尻。
 その奥にある後孔を使い交わるのが男性同士のセックスなのだと、知識だけは捨てるほどある。
 連れ込み宿らしく枕元に置かれたかごの中から、銀時は使い捨てのローションを適当に掴みとった。
 常備されたその内の一つを手に取り、残りは脇に放る。
 歯で挟んで引くように封を開け中身を出せる状態にして、銀時は土方に問いかけた。
「これから慣らすけど、……どうする。多分、うつぶせのほうが楽だとは思う」
 四つん這いの姿勢であれば多少は力を逃がす余裕もできるだろうという銀時に、土方は首を振った。
「このままで、いい……」
「いいのか?」
「……顔、見えなくなんだろうが……」
 だから、向きは変えたくないと首をふる土方の可愛さに、うっかり鼻血が出そうになり思わず鼻ごと口を覆った。
 目を向けずとも、今の言葉で自身が更に熱を増し張り出した事は感覚でわかる。
 一歩間違えばこっちが暴発の危機だ。
 無言で体を寄せ唇を奪ったのは、このどうしようもなくにやけた顔を隠したかった所為で。
 こんな締まりのない顔、好んで好きな奴に見せたいわけがない。
 別の意味で冷静になられたらそれこそ冗談ではない。
「ちょっと痛いかもしんねぇけど……、……多分、やめてやるとか俺もう無理だから」
 痛かったらやめてやるから、などと紳士面した事など言えない。
 それほどまでに、こちらも余裕が無いのだ。
 目を細める銀時の様子に、土方が息を乱しながらふっと笑む。
「……ンなの……とっくに覚悟済みだ」
「おー、おっとこまえー」
「……てめぇ相手じゃなきゃ、……誰が掘られるかよ」
 それこそ冗談ではないと首を振る土方の唇を、もう一度塞ぎ、今度は舌を深くまで入れ込み絡ませ合った。
 お互いの口内に舌を這わせ、歯列をなぞり、体を離す。
 指へと溢れかけていたローションを袋から絞り、指先へと纏わせる。
 自らの膝の上に抱え上げた土方の後孔へと指先を近づけ、まずは一本と慎重に差し入れる。
 だが、ある程度の抵抗は覚悟していた土方のそこはまるで指を入れられることを覚えているかのようにあっさりと、銀時の指を飲み込んだ。
 むしろ離すまいとその指を絞めつけてくるその様に、銀時はまさかと思いつつ指をゆっくりと抜き取る。
 その時、土方の身体が僅かにこわばったように感じ、銀時は眉を潜めつつ今度は二本同時にその場所へと指を入れ込む。
 これにはさすがにキツさと抵抗があったが、何度か指を抜き差し知ればすぐに蕩けだすその場所に、銀時は問うような視線を思わず土方に向ける。
 これは、まさか。
「土方……、お前さ」
「は、初めてだ!」
 だが、まるで銀時の声を遮るように、土方が声を荒らげる。
 そして、その返答も待たずに土方は矢継ぎ早に言葉を重ねた。
「嘘じゃねえ! お前だけだ。好き合いてぇって思ったのも、つ、突っ込んで欲しいと思ったのも、お前だけだ! ほんとに、ほんとに……!」
「ちょ、落ち着けって」
「万事屋、ちげぇ、これはっ……!」
 必死に首を振って否定を繰り返す土方に、銀時は一旦後孔から指を抜き取る。
 そして、頑なな否定を繰り返すその唇に、身体を寄せ唇を押し当てた。
 否定も、弁解も、飲み込むように口付け、土方が驚いたように息を飲んだのを確認し、唇を離す。
 そして、溜息混じりに言った。
「いや、わかってるって。てめぇは俺に、そんなすぐバレるような嘘吐くほど頭悪くねぇし」
「……あ、……」
「ただ、……ひょっとしてこっちも自分で弄ったりとかしてたのかなーとか、聞いてみたらまたお前、可愛く恥ずかしがってくれねぇかなとか、思って……うん。だから、疑ってねぇから」
 総て銀時が初めてだといってくれた土方の言葉を、疑ってなどいないから、ともう一度断言すれば、震えていた土方の身体から力が抜け。
 代わりに、じわじわと首筋から真っ赤に熱を上げていく。
「あ、……」
「……弄ってた?」
「改めて聞くんじゃねぇよ!」
 さっきとは違う意味で声を荒げる土方の所作に微笑ましさを感じ、銀時はもう一度唇を合わせる。
 その土方の反応を見れば、それが銀時の妄想ではないのは明白で。
 キスは軽く触れ合うだけに止め早急に身体の位置を戻せば、まだローションのぬめりを伴った指をもう一度後孔に突っ込んだ。
 そして、中をじっくりと探るように指先を蠢かす。
「なぁ、いつもどんなふうに弄ってたんだ?」
「ぅ、し、しらね……」
「なぁ、ココの中にもすげぇイイトコがあんの、お前なら知ってんだろ? どのへん?」
 教えてくれたら、いっぱい弄ってやると、その場所を中途半端に探し指先で内壁をなぞる。
「し、ら……ねぇっ……!」
「意地っ張り。……いいじゃん、おしえてよ。ココ? それともこっち?」
 二本の指をバラバラに動かし、熱を増す内部を戯れに擦れば、次第に我慢が効かなくなったのか、土方が声を漏らした。
「な、中指……ちょっと、伸ばせ……」
「ん? ……こう?」
「……っ、もうちょい、右……あ、あぁっ!」
 その、しこりのような部分に指を掠めれば、先ほどとは比べ物にならないほど土方の声に艶が増す。
 銀時はその声に気を良くし、ぐりぐりと二本の指でそこを弄り回した。
「へー、ここかぁ……確かに、すっげぇイイ反応」
「あ、っ……ア、やぁ……ひぃ……よ、ろ……ずやぁ……」
「いつも自分で弄ってるトコ、俺にイジられんの、……嬉しいか?」
 問いかけの形はとっているが、こんな恥ずかしい質問に土方があっさり頷くなどとは思っていない。
 ただ恥ずかしげにぎゅっと目を閉じる土方の姿に、銀時は傍に放ってあった枕を引っ張り、それを土方の腰の下へと押し入れる。
これで少しだけ楽な姿勢になるはずだと思いつつ、落ちていたローションをもう一袋拾い、同じように歯で破った。
 更にローションを追加し、三本目の指を慎重に入れる。
 だが、流石にここまでくるとそうやすやすとは指が進まない。
 強引に入れていいものかも解らずに少しずつ、見つけたしこりを撫でながら指を進める。
 土方の息も次第に荒さの中に浅い吐息が混ざり、半ば以上までを押しこめば痛みを感じているのだろうということはわかった。
 ぐちゅりと粘着質な音をさせ、半ば強引に三本の指を土方の内部へと収める。
 土方の身体が大げさに震え、身体の硬さが増した。
 痛みから気をそらせられないかと自身を撫でながら、ゆっくりと指を推し進める。
 締め付けを感じながらもしこりを弄りながら抜き差ししてやれば、その擬似セックスのような動きに土方の身体が震えた。
「あ、あぁ……や、…っン……あぁっ……」
「すっげぇ……土方の中、熱い……」
「っ、る、っせぇ……!」
 言うな、と息も絶え絶えに訴える土方の自身は張り詰め、先端からはとろりと先走りが零れ落ちている。
 このまま抜き差しを続ければそれだけでイってしまいそうな自身を目にし、先ほどの土方の言葉を思い出した銀時は触れていた土方自身の指の動きを止める。
 そして、ひくひくと震える自身の根本を、ぎゅう、とせき止めるように握った。
 途端、びくんと土方の身体が震える。
「よろ、ずや……」
「ん? イきたくねぇんだろ?」
 したり顔で問いかける己の言葉に反論も出来ずに、土方は声をつまらせる。
「そ、だけど……」
「だったら、我慢な」
 にっこりと多少胡散臭く見えるかも知れない笑顔でそう言って、銀時は三本の指で荒らした後孔から手を引きぬいた。
 まだ一つだけ残っていたローションを袋を歯で破り、今度は反り立った己の自身へと直接垂らす。
 最後まで絞りきれば袋は無造作に放り、銀時はローションを滴らせる自身を濡れそぼった後孔へとぴたりとつけた。
 恐らく、これを挿入れば指などとは比べ物にならない痛みが土方を襲うだろう。
 だが、ここに来てやめるつもりは己にもないし、勿論土方だってそんな気はないだろう。
 後はお互いを信じ、いけるところまで行くだけだ。
「……入れるぞ」
「……あぁ」
 ごく、と喉を鳴らし、土方が頷く。
 それは、恐怖からくるものなのか、それとも期待なのか。
 どちらでもきっと、構わない。
 今はただ、早く土方の中へと己の楔を埋め込みたい凶暴な衝動が身体を支配する。
 それは、好きな相手のすべてを支配したいのだと感じる、雄の本能だ。
「ひじかた……!」
 名を呼びながら、腰に力を込める。
 ぐぐ、と先端を孔へと押し込み、張り出した亀頭を半ば強引に土方の中へと押し込んでいく。
 許容以上の太さを飲み込まされる後孔に感じる痛みなど、想像した所でできようはずもないが。
「……ひ、ぃ……あっ……」
 最も太いその場所を強引に押しこむ瞬間、土方の顔が痛みに歪み、指先がシーツをシワになるほど握った。
 その指先が、震えている。
 痛々しいその様子に、開いている方の手を伸ばし、シーツから引き離した指を絡ませた。
 少しでも支えになるようにとギュッと手を握り、大丈夫だからと声をかける。
「痛かったら、素直に声出せ。耐えるより楽なはずだから。もしそれが嫌なら、これ、噛んでろ」
 そう言って口元に差し出したのは、先程己が脱ぎ捨てた着流しで。
 痛みに耐える瞬間に無為に歯をかみしめていれば、口内や歯そのものを傷つけてしまう。
 それを回避するためにと差し出した銀時の衣服を、土方は戸惑いながらも浅い呼吸を零しながら口に含んだ。
「じゃあ、……いくぞ」
 こくりと、土方が頷いたのを合図に更に腰を進める。
 土方の顔が歪み、銀時は土方の自身から一旦手を外す。
 そして、無意識に逃げ腰になるその腰を掴んだ。
 逃げればそれだけ痛みが長引くのだ。
 ここまできてしまえば、多少強引にでも総てを収めてしまった方がいい。
「……ふ、ぅぐ……う、ぅううーーっ……!」
 着流しを噛み締め、銀時の指先を痛いほど握りながら、土方は挿入の痛みに耐える。
 総てを土方の内部へと収めれば、土方だけでなく銀時も多少の傷みは伴う。
 勿論、入れられている土方の比ではないが。
 ぴたりと、土方の臀部に己の腿をつけ総てを収めた事を伝えた。
「……はぁ、……よく、我慢したな」
 エライエライ、と涙目になる土方の目尻や頬に戯れにキスを落としてやれば土方の身体のこわばりが少しだけ溶ける。
 きついことには変わりないが、銀時は一番つらいのは土方なのだと自分に言い聞かせながら、その唇にキスをした。
「どうする? 暫く馴染むまで、待つか?」
 そうすれば多少は楽になるのではと問いかける銀時に、だが土方は首を振った。
 はらりと、その口元から土方の唾液に濡れた着流しが落ちる。
「う、ごけ……」
 切れ切れな声は、痛々しい。
「でも……お前まだ……」
「いー、から……っ、早く……!」
 動けと、頑なにそう要求する土方の言葉に、ひょっとしたらそのほうが楽なのだと思ったのだろうかと、銀時はゆっくりと腰を揺らめかせた。
 強引に抜き差しはせずに、まずは少しずつ。
 だが、数センチ抜いて、また入れての動作を繰り返す内に、欲望に弱い身体は次第に土方の身体をもっと酷く突きあげたい衝動に駆られていた。
 土方の顔には相変わらず苦痛が浮かび、辛うじて萎えてはいないものの先程までのように今にもイッてしまいそうな気配はない。
 少しでも、痛みは仕方ないにしても同時に快楽を与えてやりたいと、銀時は内部を擦りながら先程土方から教えられた場所を探した。
 そこを擦れば、多少なりともこの痛みの中に土方も快楽を見いだせるのではないかと。
 多少強引に自身を抜き、このあたりだったであろうと思われる場所を突き上げる。
 切っ先が掠めたのか、土方の身体がビクリと震えた。
「……っぅ、あぁ……」
 僅かに艶のある声が漏れ、銀時はよし、と執拗にその場所を自身で擦るように突き上げた。
 そのたびに土方の身体が徐々に熱を取り戻し、痛みと同時に、快楽を見出していることがみてるだけで感じられる。
 シーツの上を彷徨う土方の繋いでいない方の手を、銀時は己の背中へと導いた。
 辛ければ爪を立てていいからと呟く声に、既に返事をする余裕が土方にはないだろうことはわかって。
 次第に銀時自身余裕がなくなり、切っ先で内部を突き上げながら、もう一度自身へと触れた。
 今度はせき止めるためではなく、もう一度快楽を促すためだ。
 内壁の土方の感じる場所を突き上げながら、自身を撫で擦り再び熱を集めさせる。
「ぁっ、ん、よろ…ずっ、ひぃっ…ん、やぁっ……!」
 その目尻からぽろりと涙がこぼれ落ちたのを見れば。
 わずかに残っていた理性は、跡形もなく吹っ飛んだ。
 内部を抉るような突き上げになってしまっている事はわかっていても、溢れ出す欲に身体を止めることができない。
 まるで貪るように土方の身体の肩口に噛み付くようにキスの跡を刻んだ。
「ひじ、かた……土方……!」
 譫言のように名前を呼びながら、ぐちゃぐちゃと先走りを零し始めた自身を手のひらで扱き先端に親指を当て尿道の辺りを強く擦る。
 背中に回した手に力が篭れば、爪を立てられる軽い痛みが走った。
 だが、それさえも心地いい。
 土方の顔が痛みよりも快楽で歪む様を目の当たりにすれば、もうたまらなくなってめちゃくちゃに突き上げた。
「あ……あぁ! ひぃ、い、イく…っ……ン―――ッ、ぁ……っ」
「……ッ、くぅ……あ、……はぁ……」
 ビクビク、と土方の身体が震え、手の中の土方自身から白濁とした精液が吐き出され。
 その締め付けと内壁のうねりに引き絞られるように、銀時も内部に白濁とした精液を吐き出した。
 じわじわと、胸に湧き上がるのは歓喜。
 土方が、己の手の中で嬌声を上げ、吐精してくれた事がたまらなく嬉しい。
 銀時は急速に熱が引く感覚に、土方の内部からゆっくりと自身を抜き出した。
 排泄に似た感触を与えたのか土方の身体がその行為に震え、総てを抜き去れば後孔はすぐには閉じきらずにひく、とその部分を震わせる。
 その動きに従ってとろりと中から流れ出る己の精液には、ところどころに赤が混じり、無茶をした内部のどこかが耐え切れずに切れてしまった事を示していた。
「……ッ、土方、悪い。……大丈夫か?」
 我に返れば、随分と乱暴な扱いをしてしまったと銀時は土方の様子を伺う。
 だが、わずかに疲れたような顔をしているものの、土方の顔に浮かんでいたのは満足気な笑顔で。
 その目尻から、また一筋涙が溢れるのを見れば、今度は先程とは違い胸が痛んだ。
「ど、どうした。いてぇのか? 悪ぃ、俺、色々吹っ飛んで……」
 自分本意なセックスを強要したと、頭をかかえる銀時に、だが土方は口角を上げ笑った。
「ばーか、ちげぇよ……」
「でも、お前泣いて……」
「嬉しいんだよ。察しろ腐れテンパ」
 まるで何かをごまかすように、こちらを罵倒する言葉を吐く土方の腕が伸び、首筋に回る。
 繋いだままだった指先に再び力が篭れば、その引き寄せるような所作に銀時は覆いかぶさるようにして土方の身体を抱きしめた。
「土方……、好きだ」
 思いの丈を込めて告げれば、土方の身体がその声に反応したように震える。
 はっ、と肩口で土方が熱のこもった吐息を吐き出すのが気配でわかった。
「……俺、一生分の幸せ使い果たしたんじゃねぇかな……」
 呟く声は、嗚咽に混じりわずかに震えていて。
 湧き上がる愛しさに銀時は顔をあげ涙に濡れる唇を塞いだ。
 緩く舌を絡め思いを確かめるようなキスをして、銀時は土方の隣へと手を繋いだまま寝転がった。
 そうして先ほどまで蹴り飛ばしていた布団を引っ張り上げ、二人ですっぽりとその中へと包まる。
 冬とはいえ室内は暖房が完備されているが、熱が引いてしまえばやはり肌寒さは感じる。
 布団の中で暖を取り、更にその身体を冷やさないようにと銀時は土方の身体を腕の中へと抱き寄せる。
「……風呂、はいるか?」
 べたべたして気持ちが悪いだろうと、問いかける銀時の言葉に土方は首を振る。
「いい、このままで……」
「でも、なんか処理とかしねぇと、腹壊すって言うぜ?」
「いい。いいから、このままでいろ……」
 平気だからと念を押され、銀時の腕の中から離れようとしない土方の姿に大丈夫なのだろうかと心配しながらも無理に引き離すことは出来ずにいた。
 行為が済んだ後でも傍を離れたがらない恋人というのはやはり可愛いもので、手放したくない気持ちは銀時とて同じである。
 ただ、それによって土方が体調をくずすのなら、それは己の本意ではないというだけで。
「……後でちゃんと洗う。だから、いいだろ」
 銀時の懸念は理解しているのか気まずそうにそう付け足す土方に、銀時は小さく息を吐きその頭を手のひらで数度撫でた。
 今は、土方がそう望むのならばそうさせてやりたい。
 指通りのいい髪を何度か撫で付け、額に唇を押し付ける。
「なぁ、土方」
「なんだ?」
「一つ、お願いがあるんだけど」
 顔を間近に寄せたままで、銀時は土方の髪をすくように遊ぶ。
 土方も同じように手を伸ばし、銀時のふわふわな髪に指を絡ませた。
「なんだ……?」
 問い返す声は優しい。
 銀時は口元を緩ませた。
「あのさ、名前、呼んでくんない?」
「……? あぁ、……万事屋?」
「いやそれ名前じゃねーし」
 わざわざ名前にアクセントを置いたのに、どうやらその意図には気付いてもらえなかったらしい。
 名前、ともう一度わざわざ強調するように言えば、土方は暫く意味が分からぬ風だったか、唐突に理解したのか顔を赤くした。
「え、……は、な、なんで、今更」
「何が今更なの。……ほんとはイくとき呼んでくれっかなって、ちょっと期待してたんですけどぉ?」
 当てが外れたと残念がる銀時に土方が目に見えて狼狽しだす。
 だが、ここで引けばもう二度と呼んでくれないような気がして、銀時はその目をまっすぐに見据えた。
「……ッ、……それは、悪かった、けど……」
「っつーか、なんでそんなに渋るかな。ファミレスとか土手んとこで既に何回か呼んでるじゃん」
 だったら今更もう何度呼んだ所で同じだろうと、銀時はそう思うのだが土方にとってはそうではないらしく。
「あ、あれはその、……い、勢いっつーか、箔付けっつーか」
「告白に箔付けてどうすんだ」
「も、モノの例えだ突っ込むんじゃねぇよ! そ、それにあん時は、……玉砕覚悟だったし、もうこれ逃せば二度と呼べねぇって思ってたからよ……その、自分へのご褒美、っつーか……」
 そんな感じだったんだと、もごもごと口の中で言い訳をする土方に銀時は頭を撫でるように数度叩いた。
「そうかそうか。でももうこれで心置きなく何度でも呼べるぞ、ほれほれ」
 呼んでみろと促すが、土方は頑なに首を振る。
「だから! ご褒美だっつってんだろそんな半日常的に呼べるかアホ!!」
「え、名前呼んで欲しいだけでなんで俺キレられてんの。おかしくね」
 そんな大それた願いじゃないとも思うんだけど、と目線を送っても、土方は目を逸らすばかりで要領を得ない。
「べ、別に、いいだろ、万事屋で……!」
「いやだからそれ名前じゃねーし。っつーか、厳密に言えば神楽も新八も万事屋だからね。屋号だからねそれ」
「それ言うなら、呼んでんの俺だけじゃねぇだろ!」
「いやー? 他の奴らは『万事屋の旦那』っていうぜ。旦那は俺だけだから固有名詞だな」
 因みに己より恐らく年下で既に親しい仲の土方がそんな呼び名を使えないことは百も承知だ。
 は、っと土方が反論の術をなくし思わず黙る。
 恐らく今土方の頭の中では何故自分が銀時のことを万事屋と呼ぶようになったのかを考えているだろう。
 銀時はその答えを知っている。
 なぜなら、土方の最も敬愛する上司であり親友でもある近藤が、銀時をそう呼ぶからだ。
 だが、近藤が銀時を万事屋と呼ぶのは、例えるなら社長同士が社名で呼び合うのと同等の意味合いを持つため別段おかしいことではない。
 余談だがその場合土方を呼ぶとすれば『真選組の副長さん』辺りだろうか。
 土方は近藤につられてそう呼んでいるのだろうが、正確に言えばその固有名詞は土方は使用できないはず、なのである。
 だが、土方が『万事屋』と呼べばそれはもう自動的に銀時を指す言葉なのだという意識が万人に定着しているために、さして問題が起こっていないだけだ。
 ならばこの先も万事屋でいいではないかと言われればその通りなのだが、何が悲しくて恋人にいつまでも屋号で呼ばれなければいけないのだろう。
「な、呼んでくれよ。『銀時』ってさ」
「ぎっ……!」
 復唱してみて、というように、ぎんとき、ともう一度己の名前を繰り返す。
 だが、土方はまだ決心がつかないのか目を泳がせていて。
「ほらー、ぎ、ん、と、き」
「ぎ、ぎ、……っ、ぎ……」
「ぎーんーとーきー」
 な? と促す銀時に、土方が口を数度、意味もなく開閉させ息を飲み。
「ぎ、……ぎ、ぎん……」
「ほら、もう一声」
 そこまで来ればもう簡単だろうと。
 だが、土方は顔を俯かせたまま銀時の視線から逃げるように俯き。
 そのままがばりと唐突に身体を起き上げた。
 そして。
「ふ、風呂行ってくっから!」
 言うが早いか脇に落ちていた着流しを引っ掴んで立ち上がる土方に、銀時は慌てる。
「へ? お、おい土方!」
「ついてくんじゃねぇクソエロ天パ!」
「はいぃぃい!?」
 不名誉極まりない二つ名を唐突にぶつけられ銀時が固まっている隙に、土方はふらつく足取りで備え付けの風呂へと逃げこんでしまう。
 行き場のない手を彷徨わせたままその場で静止した銀時は、数秒後どうにか復活したが後を追うのは憚られ頭を掻いた。
 先程の様子をみる限り、下手をすれば口を聞いてもらえなくなりそうな雰囲気だ。
「ちぇー……ったく、強情っ張りだな」
 己のことを好き好きと言っては考えられないような理論で迫ってくるくせに。
 抱かれて嬉しくて、幸せを使い果たしたなんて大げさなことを言っては泣いてしまうくせに。
 いざとなれば、名前も呼べないなんて。
 あぁ、本当に。
「………可愛いやつめ」
 布団の中に顔まで埋め、銀時はくすりと笑みを浮かべる。
 土方が気づいているかどうかは知らないが、先程土方が風呂場まで引っ掴んで持っていったのは行為中土方が噛んでいた銀時の着流しだ。
 恐らくすぐ脇にあったという理由で手についたものをとにかくひっつかんだのだろう。
 銀時は布団の上に半身を起こし、脇に投げ捨ててあった土方の着流しを引き寄せ、素肌の上に直接羽織った。
 それはもうすっかり熱を失ってしまっているが、鼻を寄せれば土方の香が鼻孔をくすぐる。
 帯を止めないまま、銀時はそこから手を伸ばし懐から転がり落ちたらしい煙草とライターを引き寄せた。
 戯れに一本を口に咥え、ライターで火をつける。
 肺まで吸い込んだ紫煙をゆっくりと吐き出しながら、銀時は風呂から戻ってきた土方がこんな己の姿を見てどんな反応をするかを想像してみた。
 そして容易に想像がつくその態度に、思わず、喉奥で笑ってしまう。
 だって、なぜならきっとそれは。

 たまらなく可愛いに、決まっているのだから。

end


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