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吐き出される己の息が、熱い。 不規則に呼吸を乱しながら、土方は今にも限界に達してしまいそうな下半身にぐっと力を入れ、背後から緩く己を抱きしめる男の袖をギュッと掴んだ。 夜半過ぎの道場。 真っ暗で明かりさえ付いていないその締め切られた空間の中で、いるのは己と銀髪の男のみ。 その男の袖を掴む指先が、僅かに震えているのが見なくともわかる。 くすりと、耳元で誂うような息を感じた。 「……足の指、縮こまってる」 笑うような指摘に、思わず息を呑む。 それは、体内から『何か』を吐き出す欲求を、じっと耐えている時のものだ。 普段であればそれは己を背後から拘束する男――銀時の手によって高められた、熱を伴った情欲である事が常だが。 今日土方がその衝動を必死で耐えているのは、その白濁とした液体ではなく。 「も、……ぁ……」 「漏れそう?」 今朝から一度も放出することを許されていない、限界に達した尿意だった。 まるで音を流し込まれるかのように耳元で囁かれるその声でさえ、一瞬でも油断すればそれは決壊してしまいそうで。 「……よろず、やぁ……」 許して欲しくて、離して欲しくて、名前を呼ぶ。 だが、そんな懇願をこの男が聞いてくれるはずもない。 いや、正確には。 「何強請るみたいな声出してんの。……俺、お前を後ろからぎゅってしてるだけだぜ」 逃げようと思えば、いくらでも逃げられるデショ、と笑うような口調で告げる銀時に、息が詰まる。 実際、その通りだ。 今、脇目もふらずここで銀時の腕を振り払えば、きっとこの手の拘束はいとも簡単に外れるはずだ。 そして、そのまま道場脇にある厠に駆け込めば、今ならばまだぎりぎり間に合うだろう。 だが。 「逃げないんだろ、てめぇは」 優しげな声は、硬質な響きを持って鼓膜を揺らす。 銀時の指先がつーっと袴の上から肌をなぞり、ゾクリと背筋が泡立った。 「なぁ、……俺に、見られてぇんだよな」 その言葉に口から漏れ出る吐息は淫靡な熱を含んでいた。 顔がきっといやらしく歪んでいるだろうことが見なくてもわかり、そんな自分に吐き気がする。 こんな、自分を目覚めさせたのは、まず間違いなく背後の男だ。 知らなくてよかった。 こんな自分を、知りたくなどなかったのに。 「いいぜ。……全部、見せてみろよ。―― 十四郎」 まるで許しを与えるようにその名を呼ばれた、瞬間。 「はぅ、……ッあ、……あ、っ、……やぁ、ぁぁあ……っ」 耐えていたものが決壊した。 一気に股の間が酷く濡れ、下着さえみにつけていなかった自身から放出された液体は袴に総て受け止められることなく床へと溢れる。 一日中我慢していたそれはなかなか止まらずに、袴の股の部分がぐっしょりと濡れなおかつ足元には小さな水たまりのようなものが出来ていくのが濡れていく足元で理解した。 とうとう、やってしまったのだ。 こんな、厠でもなく、まして百歩譲って己の私室ですらない、こんな場所で。 今己は銀時に見られながら、失禁している。 その倒錯的な感覚に、くらりと、目の前の世界が奇妙に歪んだ。 十秒弱をかけてゆっくり排泄を終えた土方の膝が、力を失い笑う。 不意に、銀時が抱きしめていた土方の身体を解放した。 がくりと力が抜け、土方はその場に座り込む。 その所作で、濡れていなかった尻の下や足の間の袴まで、床に零れたソレでぐっしょりと濡れていくのが感触でわかった。 身体が、小刻みに震えている。 だがそれは恐怖からではなく、どうしようもなく溢れ出る羞恥と、それにより煽られた快楽の片鱗。 こんな異常な状況下で、土方は勃起しかけている己の身体に心の底から吐き気がした。 「変態」 罵るような声が、背後から響く。 だが、その声に反論する術など、今の土方にはありはしない。 あぁ、本当に自分は変態なのだとそう思って。 頬に流れる涙の理由すら理解出来ないまま、土方は勃ちあがった自身を少しでも隠すように、体を丸め縮こまった。 end |