臆病なサチリアジスと狡猾なパラフィリア




 いつから惹かれていたか、なんて、具体的には思い出せない。
 ただ気付いたときには、あの銀色にがんじがらめにされていた。
 その思いを自覚した時の衝撃といったらとんでもなく、当時はなんとか逃げ出せないかと酷くあがいたことを覚えている。
 だが、わかっていた。
 そんな事をしても無駄だと。
 この思いからは、きっと逃れられないのだと。
 忘れようとすればするほど、頭も心もその色で埋まり、どうしようもないほどに身体が高ぶるのだ。
 刀を軽く折るあの力強い腕に抱かれたい。
 敵を見る時の射殺すような瞳で、この身を貫いて欲しい。
 糖尿寸前とまで言われるほど甘いモノを馬鹿みたいに食べるくせに、その身体の肉付きは同じ男から見ても羨ましいもので。
 あの身体に組み敷かれ、いいようにされたい。
 元々土方には誰かに傾倒しその存在に必要とされることで自己を保つ軽依存のような習性がある。
 そして、それは恋愛にも当てはまった。
 仕事柄、弱い女性を守ってやるような恋愛はできない。
 むしろ、幸せになるのに己の存在が邪魔ならば、むしろ自ら切り捨てさせる事も厭わない。
 初めての恋は、そんな不器用なものだった。
 そして二度目の恋の相手は、守る必要など微塵もない、むしろこちらが守られる羽目になってしまうような強い、男だった。
 土方は酷く興奮した。
 今まで自分の中に恋愛に対するこんな激情があったことを初めて知った。
 あの男が欲しい。
 あの男に、必要とされたい。
 触れて欲しい、くちづけて欲しい、そのまま、抱いて欲しい。
「……あ、あぁ……ッ!!」
 びちゃりと、手の中で自身が白濁を吐き出した。
 自身を包んだ手の中にべったりと付着しているのは、たった今己の吐き出した精液だ。
 あの銀色の男に組み敷かれ、酷くサディスティックな言葉を浴びせられながらその身を突かれるシーンを夢想し、果てる
 もう、飽きるほどに繰り返したそれは半日常の一部として存在した行為だった。
 震える手を下肢に伸ばし、後孔に埋め込まれ規則的な振動を繰り返している玩具を黙らせる。
 スイッチを切れば途端、死んだように動きを止めるその無機物を体内から引っ張り出し、それが抜け出る快感にまた喘いだ。
 まだ、足りない。
 先程からもう三度この玩具を使い無様に果てているというのに、身体はまだ満足してくれない。
 理由など、わかりきっている。
 この無機物は当然だが、己の愛しい男のものとは、似ても似つかない。
 温度もなく、肉欲的な堅さもない、ただ性欲を満たすためだけに造られた玩具。
 そんなものをいくら猿のように使った所で、心身ともに満たされることなど、有り得ない。
 欲しい。
 あの銀色が欲しい。
「………銀時……」
 呟く声は、自分でも嫌気がさすほどに欲に塗れていた。





 銀時は三日か四日に一度の黄昏時に、よくこの飲み屋を訪れる。
 一時期、己の欲をまだうまくコントロールできていなかった頃、酒を呑むことで衝動をごまかしていた時期に土方はそれを知った。
 決まった店があるわけでもなく屋台や数軒の店を相手によって気まぐれに飲み歩く銀時が、唯一一人でいることが多い店でもある。
 そして、この店は銀時と土方が『偶然』遭遇し、席を共にする店でもあった。
 初めてこの店であの男を目にし、そして男――銀時がこの店を割と頻繁に利用していることを知った。
 席を共にしたいと、そう思い始めたのが最初。
 だが毎回ではきっと、聡いあの男は土方に付け回されている事に気づいてしまうだろう。
 だからこそ、間をとって数週間に一度、それも決まったペースではなく店に通い続けた結果、なんとなく相手を見つければ席を共にする関係まではこぎつけた。
 勿論、問題がそこからなのはわかっている。
 この半年ほど、土方は自ら状況を動かすことを由とはしなかった。
 行動へのストッパーをかけていたのは理性で、こんなふうに共に飲めるだけでも十分なのだと、自分に言い聞かせていた節がある。
 だが、ここ数週間の己の愚行で、それもそろそろ限界なのはわかっていた。
 ただ隣に座っているだけで、身体が高ぶる。
 着流しの下では突起がすっかり膨れて布に擦れるたびに身体に熱が灯る。
 偶然肩が触れただけで勃起しそうになり、酒を飲んでいて近いのだと言い訳めいた言葉と共に厠に逃げ込んだ事もある。
 そして、その逃げこんだ個室でしていることといえば、公衆の面前でだらしなく果ててしまった己と、それを罵る男の姿。
 言葉で攻められ、辱められ、背後から貫かれ達する様を想像し、土方はまた自慰に浸るのだ。
 声を必死に抑えながらティッシュの上に精を吐き出し、また何喰わぬ顔で席へと戻る。
 多少顔が赤く呂律が回っていなくとも、酒のせいだといえばたいていはごまかせるのだから楽なものだ。
 だが、それもそろそろ潮時だと土方は思う。
 終わらせるわけではなく、一歩踏み出すのだ。
 今も自分の隣に座り機嫌よく酒を傾けている銀時を、己のものにしたい。
 正確には、土方自身が銀時のものになりたいのだが。
「おい親父、あの酒まだあるか?」
 銀時が熱燗を二本開けたタイミングで、土方はおもむろに店の親父へとそう切り出した。
 親父は土方の言葉にすぐにそれがどの酒を指すのかを察したように、店の棚から茶鈍色の一升瓶を手に取った。
「これだろ、土方の旦那」
「そうそう。それ、こいつに注いでやってくれよ」
 提供されたグラスを掲げながら、土方は隣にいる銀時を示しながらそう告げる。
 土方のめずらしい言動に、隣で座っていた銀時は興味ありげに赤い顔を瓶へと向けた。
「え、なになに。珍しい酒なの?」
「あー、まぁそうだな。俺の気に入りで、たまにしか入荷しねぇんだ」
 まぁ、飲んでみろと土方は親父がほいと差し出したグラスを手ずから受け取る。
 そして、その一瞬で中指と手のひらの間に挟んでおいた小さなカプセルを酒の中へと陥れた。
 酒はにごり酒で、粒状の物体など落ちてしまえばまず見つからない。
 しかもカプセルは水溶性で、土方がそれを銀時の元へと手渡すころには綺麗に溶けて中の液体が流れでているだろう。
「へー、珍しいこともあんじゃん。奢り?」
「毎度毎度たかってくる奴の台詞じゃねーよ。いいから飲めや」
 ほら、とグラスを押し付ければ、銀時は既にホロ酔いなのかへらへらとした笑顔のままそれを受け取った。
「はーい、んじゃ、いっただっきまーす」
 気の抜けるような掛け声と共に刻々と喉を鳴らして酒を飲む銀時の姿に、土方は心中でかかったとほくそ笑む。
 混入したのは、何も危ない薬ではない。
 俗に言う睡眠薬の一種だ。
 しかもアルコールと共に摂取するとその効果は何倍も早く現れる。
 幸い土方が銀時へと進めた酒はアルコール度が強く、ここで寝てしまったとしても『酔いつぶれたのだ』と店は解釈してくれるだろう。
「っはぁ……へぇ、なかなか美味いな」
「だろ?」
 勿論、酒が土方の気に入りであることは本当で、気分良く酔いたいときにはよくこの酒を飲みに来る。
 今日は己は飲まないでおこうと思いながら手前の酒をちびちびとこなし、そして十分後。
 酒と薬にやられた銀時は、すっかりカウンターに突っ伏し寝息を立てていた。
「おや、銀さんは落ちちゃったかい」
 だらりと口から涎を垂らし完全に陥落している銀時にはははと笑う親父。
 まさか自分が仕込んだクスリのせいだとは言えず、土方は適当に話を合わせながら二人分の会計をカウンターに置いた。
「馳走になった。またくる」
「はい、いつでもお待ちしてますよ旦那」
 つり銭を受け取り、弛緩した身体を肩に担ぎ上げる。
 今日はさり気なく酒量をセーブし、なるべくアルコール度数の高くない酒ばかりを頼んでいたせいで、夜風に当たれば酔いはすぐ冷めた。
 この辺りで使えそうな連れ込み宿は既にリサーチ済みだ。
 この睡眠薬は一度効いてしまえば大の大人でも最低六時間は絶対に目が覚めない。
 それだけあれば、己の欲を満たすには十分だ。
 銀時が起きる前に事を済ませ、綺麗に後始末を終え、とんずらしてしまえばバレはしないだろう。
 勿論無銭飲食するつもりはないから金は置いていく。
 そこに適当な描写をつけた書き置きメモでも置いておけば、土方が適当な宿に銀時を放り込み金だけを置いて先に帰ったというシナリオが成立するのだ。
 褒められた行為ではないのはわかっている。
 それでも、もう、限界だった。
 今も銀時を肩に担いで歩いているだけで、心臓がうるさいほどに高鳴り今にも座り込んでしまいそうなのである。
 早く、この体に触れたい。
 目星を付けていた連れ込み宿の一つに銀時の体を運び込み、土方はそのベッドの上へと銀時の体を転がした。
 そして、僅かにみじろぐその身体の上に、獣のように飛び乗る。
 己と銀時以外には誰もいない空間の中で、しかもココはいわゆる『そういうこと』をするための建物だ。
 もう我慢する必要はないのだと感じた瞬間に、身体の箍は完全に外れた。 
「銀時……銀時……!」
 発情期の獣のように息を荒くし、それでも頭の端に残った理性を掴んだままで傷つけないように銀時の服を剥いでいく。
 変わった着こなしの着流しを脱がせ、インナーから首と手を抜く。
 ズボンや下着も総て取り去ってしまえば、そこにはだらりと弛緩した銀時の雄がぶら下がっている。
 一気に口の中に唾液が溢れ、あぁ、自分は本当に変態なのだと知った。
 こんなもの、自分にだって同じものがついてるのに、それが銀時のものだというだけでどうしようもなく欲情する。
 自らも着物を脱ぎ捨て、全裸の状態で銀時の方へと四つん這いで近寄った。
 早く、咥えたい。
 舐めて吸って、しゃぶって、それから。
「ん、ン……ぎ、ときぃ……ンン……」
 唾液を滴らせた口で喉奥まで銀時の雄を迎え入れ、そのまま卑猥な音を立て愛撫する。
 舌先で先端を抉り、そのまま裏筋を押し付けるように辿る。
 両方のタマを手のひらで遊ぶように揉みながら、唾液を塗りつけるように舌を這わせた。
 じゅぷじゅぷと卑猥な音を立ててしゃぶっていると、徐々に口内で性器が形を変える。
 頭を擡げ堅さを増していくその様に身体が勝手に反応し、気づけば片手を下肢に伸ばし夢中で己の性器を扱いていた。
 こんなふうに自慰をしながら銀時の自身を咥える妄想を何度となく繰り返したことを思い出す。
 それがいま、夢や空想などではなく現実として目の前にある。
 それを思うだけで、我慢などできなかった。
「う、うう、……んぐ、ぅ、ううッ――!!」
 銀時の自身を咥え、その味を確かめながら精液を吐き出す。
 今きっと己は酷くいやらしい、恍惚とした顔をしているだろう。
 イった瞬間に閉まった喉奥に刺激されたのか、口内にわずかに苦味が増した液体が広がる。
 土方は口内に広がるその味に一層興奮し、先程手のひらに放った自身の欲を指に纏わせ臀部をなぞった。
 そしてたどり着いた後孔に、一気に二本、指先を挿入する。
 常日頃からバイブやローターを銜え込んでいる土方の後孔は少しの刺激を与えればすぐに快楽を思い出し、緩まる。
 勿論濡れることはないから、土方は粘度のある己の白濁で中を慣らし、思い出したように銀時自身から口を離した。
 本当はもっともっとしゃぶっていたいが、今日の目的はそこではない。
 早く己の後孔に、銀時の自身を受け入れたいのだ。
 とはいえ、寝ているとはいえ銀時に痛い思いはさせたくない。
 土方は枕元からボトルの使い捨てローションを手に取り、それを己の手に無遠慮に搾り出した。
 数度手を握ってローションを人肌にして、そのまま指先を先ほどと同じように後孔へと突っ込む。
 先程よりもまた一本増やし内部にたっぷりとローションを擦り付けた。
 三本の指でぐちゃぐちゃと内部をかき回し、これくらいでいいだろうかと指を抜く。
 いよいよだと、喉が鳴った。
 目の前には勃起し、熱を集めている銀時の性器がある。
 それを飲み込めるのだと考えただけで、みっともなく喉がなりそれだけで達してしまいそうだった。
 早く、早くと逸る気持ちを抑えながら、土方は慎重に銀時の上へと乗り上げる。
 指先で臀部を開き、みっともなく引くつく後孔に、勃起した銀時の自身をあてがった。
 ゆっくりと、力を入れる。
 だが、孔が張り出した銀時の先端を飲み込もうとした、瞬間。
「……――何やってんの」
 酷く、冷淡な声が聞こえた。
 ざぁ、っと体中の体温が一気に足先まで落ちるような心地がして。
 土方は下肢に向けていた意識を、恐る恐る前方へと向ける。
 そこには、たった今起きたばかりとは思えないほど、鋭い目付きをした銀時の姿があった。
 明らかに怒りの意を湛えた瞳は、真っ直ぐに銀時を貫いている。
「……あ、……よ、ろず……や……」
 声が掠れる。
 何をしていたか、なんて、この様子を見れば一目瞭然だろうに。
 だが銀時は相変わらず冷めた目でこちらを睨みつけ、そして、不意に予備動作なしに足を振り上げた。
 油断していた所に飛んできた蹴りを避けきれずに、衝撃を腹部にもろに食らう。
 情け容赦ないその蹴りに、土方の身体は布団の上に倒れこんだ。
 みぞおちを抑え、痛みに耐え激しく咳き込む。
 その間に、銀時はよっこらせと気だるげにつぶやきながらベッドの上へと起き上がった。
 銀時はチラ、と自分の下半身と土方の身体に目線を投げてから、再び口を開く。
「ねぇ、質問に答えてくんない。何やってんのってきいてんだけど」
「……ッ……」
 急かすようにもう一度問いかけてくる銀時に、だがそんな事よりもと、土方は喉をつまらせる。
 なぜ銀時が起きているのだろうと、土方の頭の中はそれでいっぱいだった。
 絶対に、朝まで起きる事などないだろうと踏んでこんな行為に及んだのに。
 しかも、銀時は恐らく今しがた目を覚ましたのではない。
 あの様子では、もっと、ずっと前から。
 ぐるぐると頭の中でいつからバレていたのかと眉寄せる土方に、銀時はこれ見よがしに溜息を付いた。
「あのさ、何考えてんのかしんねーけど先に言っとくわ。銀さん昔あれこれやんちゃしてた時期があったせいで、クスリとかそういうの殆ど効かない体になってるから」
「……――ッ!!」
 そして、告げられた言葉に息を呑む。
 それが本当ならば、最初から、あの睡眠薬は全く効いていなくて。
「珍しく土方くんがなんか考えてるみたいだから、何考えてんのか気になってのってみたけど、……何、てめぇホモ?」
 心底面白がり、そしてどこか軽蔑の色すら滲ませる銀時の言葉に、声がでない。
「それにしたってこれ酷くねぇ? クスリ飲ませて連れ込み宿って、警察のすることかよ。……なぁ? 真選組の副長サン」
 揶揄するような、言葉。
「………なぁ、なんとか言えよ変態」
 唇を震わせ黙っていると、また容赦無い蹴りが飛んできた。
 起き上がりかけた身体が、また布団へと沈む。
「あのさぁ、わかってんの副長サン。お宅がヤッた事、これ犯罪だからね。完全なる非同意行為だよね、ただのレイプですよね」
「………わ、わかって、る……」
「あ、そうなの。自覚ないかと思ったケド、……でも、わかってんなら尚更悪ィだろ」
 痛みを耐えながら起き上がる土方の前で、銀時が土方の着流しを漁っている。
 何を探しているのだろうと眉を寄せた土方の前で、銀時は見知った土方の黒い携帯電話を取り出した。
 そして、慣れない手つきでそれを開き、状況が飲み込みきれない土方が動くよりも早く、何かのボタンを押した。
 そして、携帯を耳に押し当てる。
 一体どこにと、回らない頭で考え始めた直後、唐突に思い当たる顔が頭をよぎり、同時に銀時が声を発した。
「あぁ、ゴリラ? 今さぁ、お宅の副長さんといるんだけど……」
「やめっ、……!」
 掠れた声で叫び、土方は銀時の腕に縋り付いた。
 先ほど頭によぎった不安がやはり思い違いではなかったのだと、背筋に悪寒が走る。
 銀時は事の次第を上司であり、親友でもある近藤に報告しようとしている。
 それを理解した瞬間、行為の熱も蹴られた痛みも総て吹き飛んだ。
 そんな事をされれば、あの場所を失ってしまう。
 あの何よりも大切な場所を、失ってしまう。
 腕に縋り必死に首をふる土方を、銀時が鬱陶しそうに見やった。
 そして集音部分を手で覆う。
「何。こういう場合職場への報告は必須だろ」
「や、やめ……頼む、から……」
 それだけはやめてほしいと、震えながら首をふる。
 じわりと視界が滲み、自分が泣いているのだと気づいた。
 ぱたぱたと涙を散らしながら、やめて、頼むと必死に懇願する。
『万事屋? おーい、トシー? そこにいんのか?』
 電話口から聞こえてくるのは、誰よりも大切なたった一人の上司の声。
 あの場所を失えば、己は生きていけない。
 だが、クスリを盛り、あまつさえ銀時にレイプまがいの行為を行ったと知れば、近藤が顔を顰めることは必死だ。
 それほどに、最低な事をしている自覚はある。
 真選組にいられなくなれば、刀を持つことももう不可能だろう。
 刀を振るえない人生など、土方にとってはもう何の価値もない。
 そんなことになれば、生きていたって死んでいるも同然だ。
 殺さないで、お願いだからと、土方は必死に首をふる。
「……わる、かった……、俺が、わるかった、から……頼む、ごめん、……っごめんなさい……!」
 涙をぼろぼろと零しながら、許して、お願い、ごめんなさいと必死に頼む。
 土方の様子を暫く眺めていた銀時は、相変わらず蔑んだような目で土方を見つめていたが、不意に通話口を抑えていた手を話し電話へと意識を戻した。
「あー、副長さんが嫌がってっけどまぁ、報告。こいつさっき居酒屋で酔いつぶれてとても歩ける状態じゃねぇから、今晩うち泊めるわ。てめぇに失態知られんの嫌らしいけど、知ったこっちゃないんで。明日こいつ仕事?」
 そして、つらつらと告げられる言葉に、息を呑む。
『トシが? そうかぁ、迷惑かけるな。迎えを寄越そうか?』
「いんや、もう遅いし、こいつべろべろだし、仕事あんなら明日にでも迎えにこさせえて」
『いや、明日は元々トシは非番だ。なに、折角の休みだ、ゆっくり二日酔いを直せと伝えてくれ』
 スピーカーから、いかにも楽しそうな男の声が聞こえる。
 その朗らかな笑い声が、この一種異様な空気と混じり合い、妙な不協和音を起こす。
「はーい、了解。じゃー、そういうことで」
 プチ、と銀時は一方的に回線を切断する。
 そして、黒色の機体にはもう興味をなくしたように布団の上へと放り投げた。
「……よろず、や……」
 懇願していた身でとは思うは、銀時が矛先を納めてくれた事が信じられずに、土方はその名を呼ぶ。
 あの蔑んだ目で見られた瞬間、もう総ては終わったと、そう思っていたのに。
 銀時は傍に落ちていた自分の着流しを羽織り、土方の方へと手を伸ばした。
 その手に、今度は殴られるのかと一瞬身構えたが、指はそのまま土方の顎を掴み上げる。
 乱暴なその動きに喉が詰まる錯覚を覚えて思わず目を閉じた土方に、銀時は問うた。
「なぁ、そんなにゴリラにバラされんの、嫌?」
 終わったと思ったその話を継続され、土方は顎を抑えつけられながらも首を縦に振る。
 だが、抑えつける力が強く、上手く肯定ができない。
 必死に首を縦に振ろうとしていると、力は更に強まった。
「口で答えろよ。喋れんだろ」
「あ、……い、いや、だ……」
「ふぅん……でもさ、別に言おうと思えばいつでも言えるんだよねぇ……別に未遂だし銀さんに否もないしさ」
 被害被るのは土方くんだけだし、と喉奥で笑う銀時に、歯の根があたりカチカチと震える。
 小動物のように怯えている土方の顔を固定したまま、銀時は殊更ニッコリと笑みを作った。
「バラされたくねぇんだよな」
「……あ、あぁ……」
「バラされねぇなら、なんでもする?」
「す、する……なんでもする……!」
 あの場所を失うことを考えれば、他になんだって出来る気がした。
 それが、銀時の言葉であれば、なおさら。
 必死の形相で頷く俺の顔に、銀時の顔が満足気に歪んだ。
 そして、その歪んだ笑みのまま、銀時は土方に告げる。

「じゃあ、今から土方くん、俺の奴隷ね」

 きっと、ショックをうけるべき場所なんだろうと思った。
 だが、その目の奥にある情欲を含んだ色を目の当たりにした瞬間。
 みっともなく己の中に芽生えたのは、歓喜、で。
「……わ、わかった」
「敬語」
「わかり、ました……」
 銀時に服従するようにそう告げた時、無意識に喉を鳴らしてつばを飲み込む。
 きっとこれから、手酷い扱いを受けるだろう事はわかっていた。
 まるで性欲処理の玩具のように、ぼろぼろに抱きつぶされるかも知れない。
 だがそんな想像が総て、身体を熱くさせ情欲を煽る。
 己は今から、銀時の奴隷なのだ。
 これでもう、どこにも逃げることはできない。
 湧き上がる歓喜に、既に自身が勃起してしまっているのが分かって。
「……変態」
 それを罵るような言葉で詰ってくれる銀時に、土方は湧き上がる歓喜に体を震わせた。


 ――……あぁ、なんて、俺は幸せものなんだろう。



end


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